【コロナ禍が問うもの】演劇は未来の糧 演出家・京都舞台芸術協会理事長 和田ながらさん
新型コロナウイルス感染によって舞台の公演が中止・延期に追い込まれ、今後も、活動再開が不透明ななか、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)出身で、京都舞台芸術協会の理事長もつとめる演出家・和田ながらさんに、演劇関係者の実情や、演劇の役割などについて聞きました。
5月・6月に予定していた国内外の公演が延期となりました。その間の収入もなく、次の予定も調整が続いています。劇場公演の現場で仕事をしている音響や照明のスタッフさんは、まったく仕事がなくなり、舞台出演とともにワークショップやスクールの講師で収入を得ている役者やダンサーもそれらすべてが中止となり、先が見えない状況です。
長い歴史のなかで、国や地域が劇場や演劇文化を守ることの社会的合意があり、コロナのことでも手厚い補償があるヨーロッパと比較すると、日本の演劇の基盤がいかに脆弱であったかがあらためて浮き彫りになったと思っています。
それでは、日本において演劇など必要がないのかというと、私は違うと思います。演劇は物語を劇場で展開するものと一般的には考えられがちですが、より広義に捉えれば、それぞれの立場でどのようにふるまうのか、各人が置かれた状況をどう解釈するか多角的に想像しシミュレーションするもので、コミュニケーションのあり方をふくめ、すべての人の生活に深く関係するものです。演劇人は、それを専門的に考え、実践し、人々に還元する案内人であるとも言えます。
私の場合は、大学時代にお世話になった先生方の多くが実験的な作品を手掛ける実作者だった影響もあり、ストーリーにはこだわらず、いろいろな方法で日常生活を見直す作品を創作してきました。最新作では、妊娠・出産はどういうできごとなのか、男性と出産未経験の女性の俳優がリハーサルすることを通じて、観客と一緒に考えてみました。
あまりたくさんのお金は稼げませんがが、人が豊かにどう生きるかを考える上で実り多いものを創造していると考えています。
未来を考える際にも、同様です。今後どのような状況になるのか、どのような考えが必要になるかは予想できない部分があります。だからこそ日頃から多様な価値観を認めることが大切です。多様な種が存在したことで、生物が生きながらえたように。多様な価値観について考える場であり、疑似体験できる演劇は、未来に対して非常に大きな役割を果たしうると思っています。
わだ・ながら 演出家。個人ユニット「したため」主宰。京都舞台芸術協会理事長。京都造形芸術大学芸術学部映像・舞台芸術学科卒業、同大学大学院芸術研究科修士課程修了。「したため」は大学の卒業制作公演(2009年)のタイトル。11年、個人ユニット「したため」を立ち上げる。15年、創作コンペティション「一つの戯曲からの創作をとおして語ろうvol.5」(福岡市文化芸術振興財団)で最優秀作品賞を受賞。劇作家で演出家の平田オリザさんが芸術総監督を務める「こまばアゴラ劇場」が、有能な若手演出家に光を当てるために18年に設けた「こまばアゴラ演出家コンクール」の初回の1次審査および2次審査でいずれも観客賞を受賞。同世代のユニットとの合同公演や美術家や写真家などとのコラボ企画も積極的に行う。