【ポストコロナの教育を考える】教育条件を法制化し、20人学級へ年次計画を 「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」事務局長 山﨑洋介さん
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、子どもたちが通う学校の学級規模や教育環境の見直しが求められています。教育関係者や研究者らに、コロナ禍を経験した学校や教育がどうあるべきかについて聞きました。
新型コロナウイルスや新たな感染症対策として、小中学校で「身体的距離」を保つには、20人程度の少人数学級しかありません。
文部科学省は「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル『学校の新しい生活様式』」を発表(5月22日)しました。参考として示したのが、教室の生徒間の距離を「縦190センチ、横120センチ、斜め135センチ取る方法」で、その実践として、20人程度の「分散登校」が行われました。
教職員が同じ授業や指導を午前・午後の2、3回行い、消毒作業を行うという、苦労と努力であくまで臨時、緊急的なものでした。しかし、各地の学習会などで教師から出される声は、「一人ひとりに言葉かけしやすい」「生徒の様子がよく見え、生徒も見られている意識から集中力が高まる」など、少人数学級の良さでした。
学校再開で、1クラス上限の40人(小1は35人)の学級編成に戻り、教室内で身体的距離を取ることは不可能になりました。子どもたちはどうしても密になりがちです。感染への不安から登校をためらう子どもや保護者が多いと聞きます。登校した子どもたちにとってもマスクや手洗いの励行などがストレスとなっています。心身のケアが必要な子どもたちに寄り添い、じっくりと支援することが必要だと思います。
奈良県で今春まで小学校教師を35年間務め、今も教組の役員を務めています。小中学校の学級編成標準が50人から45人になったのは1964年度、80年度から40人、小1のみ35人になったのは2011年度です。少人数学級は教育現場からも積年の願いです。
少人数学級の導入に消極的な人々がデメリットとして上げるのは、「切磋琢磨する機会が少なくなる」、「財政負担が大きい割に学力向上などの費用対効果が少ない」という主張です。多人数で学ぶという切磋琢磨論は、感染症対策の面から説得力がなくなりました。問題は財政です。教育は、費用対効果ではかるものでしょうか。学力テストで順位を競い、受験のための学習が教育ですか。教育基本法第一条の「教育の目的」は「人格の完成」とあります。その人らしい全面発達が本来の教育の目的であるはずです。
OECD諸国で教育支出が最低
経済協力機構(OECD)による2017年の調査では、日本の初等から高等教育の公的支出が国内総生産(GDP)に占める割合は、OECD諸国で最低です。1クラス当たりの平均児童数は初等教育で27人(OECD平均21人)、前期中等教育は32人(同23人)。調査30カ国中、小学校は下から3位、中学校は下から2位です。
「調べる会」は、発足から14年、全国の学級規模や財政状況、教職員実数調査など、情報公開を含め資料を取り寄せ、少人数学級実現のために必要な教員数と予算を試算しました。
2019年度の結果では、35人学級実施には約1万5000人の教員、約1200億円、20人学級実施では12万5000人の教員、1兆円の追加予算で可能であると分かっています。京都府では20人学級実現には2934人の教員、167億8429万円の追加予算で可能となります(国負担64億5550万円)。
15年をかけて全学級20人に
大事なことは、教育条件の法制化です。目標とする教員数を定め、年次計画を立てて実施していく。私たちの提案は、○来年度から35人学級実施○再来年度以降、全学年の学級上限を1人ずつ引き下げ、15年かけてすべての学級を20人以下とする○その間に教員養成と教室など施設の確保を計画的に進めることです。
少人数学級を求める声は広がっています。知事会や市長会、町村会が文部科学大臣に要請し、2020年の「骨太の方針案」には「少人数指導によるきめ細かな指導体制の計画的な整備」が盛り込まれました。
乾彰夫都立大名誉教授をはじめ、前川喜平元文科事務次官ら教育研究者有志が呼びかけた、①少人数学級のすみやかな実施②詰め込み授業でない豊かな学校生活の保障を求める署名運動(写真下)も始まりました。幅広い人たちとグローバルスタンダードな少人数学級実現へ、力を合わせましょう。