署名を提出する田野氏(中央)

 新選組の屯所として使われた旧前川邸の隣接地(約1460平方メートル)に大阪の建設業者が7階建て、高さ20メートルのワンルームマンション建設を計画しています。これに対して周辺住民は、歴史的景観を損なうほか、建設予定地に接する道路が都市計画法および施行令の基準を満たさず京都市の開発許可は違法・不当として8月7日、許可した京都市開発審査会に開発許可取り消しの審査請求と、開発許可処分執行停止の申し立てを行いました。

 審査請求などを行ったのは旧前川邸の所有者田野一十士(たの・ひとし)氏をはじめ、新選組ゆかりの八木邸、壬生寺、新徳寺の代表者ら509人。旧前川邸を保存する会による、局長・近藤勇や副長・土方歳三らの子孫、新選組ファンら3888人、地域住民359人による建設計画中止を求める京都市長宛て署名も提出。

 審査請求では、幕末史研究者の中村武生・京都女子大学講師の「計画地は近くの別の屯所やゆかりの寺院も含めた『新選組遺跡』の建物や計画を守る緩衝地帯と位置づけられる」との見解を引き、開発区域をふくむ周辺一帯の地域は壬生地域の歴史の継承や景観形成上、重要な地域であると強調しています。

 さらに、交通量が多く、重大な通行上の支障をもたらすほか、建設予定地に接する道路の幅員が複数カ所で最低必要な4メートルに満たないなど、開発許可は違法・不当としています。

マンション建設予定地(壬生賀陽御所町)と隣接する旧前川邸。道路は錦小路通

 旧前川邸は、徳川14代将軍家茂の上洛(1863年)の際、将軍護衛用に組織された浪士組の京の宿として提供され、浪士組の一部が、新選組に改組された際も屯所として利用されました。新選組総長・山南敬助の切腹や、副長・土方歳三による親長州浪士・古高俊太郎の拷問の場所とされています。

 京都市から2018年、壬生地域の景観形成にとって重要であるとして景観重要建築物に指定されたほか、文化庁文化財部記念物課編纂の『近代遺跡調査報告書、政治(官公庁等)』(2014年)でも、新選組を語る上で重要な施設として取り上げられています。

 建設をめぐっては、建設業者は今年2月頃、周辺住民に計画を文書で配布。15軒に承諾書の署名・押印を求めましたが12軒が応じませんでした。それでも、建設業者は3月、京都市に開発許可を申請。5月に許可が下りました。

 そこで、周辺住民は開発計画中止を求める署名を隣接住民41人から集めて京都市長宛てに提出していました。