【新型コロナ京都フォーラム呼びかけ人に聞く】要件曖昧 「緊急事態」の改正必要/京都自治体問題研究所理事長、龍谷大学教授 大田直史さん
私のテーマは、「新型インフル特措法に基づく緊急事態宣言の問題点」です。なぜ、このテーマにしたのか。それは、あまりにも政府が感染拡大の状況に対して無策であると思われたからです。国民に接触の機会を減らす自粛を要請することが基本になりますが、国は、本来、何をすべきなのかを明らかにする。講座では、3つの柱でお話をしています。
まず、前提として、コロナ感染の再拡大、第2波の現状です。一時、全国での1日の感染者数は960人(8月3日)で、第1波を上回る状況となっていました。しかし、その後の事態はどうなったのか。8月24日に開かれた厚生労働省に助言する専門家の会合では、感染状況について、一部の地域では新規感染者数が緩やかに減少し始めているとした上で、高止まりしたりする可能性などもあるとして、引き続き警戒が必要だとしました。つまり、感染再拡大の危機的状況はなんとか回避することができたということです。しかし、これは国の対策が有効だったからではありません。
自治体独自策と国民行動が要因
講座の2つ目の柱では、第2波の感染状況がこの程度で止まっているのは、地方自治体の独自策が講じられたからだということを分析しています。例えば、愛知県は7月29日、県独自の「緊急事態宣言」を行い、名古屋の繁華街の飲食店などに休業・時短要請をしました。現在、「厳重警戒」として「不要不急の行動自粛」などを要請をしています。沖縄県も8月1日から県独自の緊急事態宣言を発出(29日解除)しました。こうした県の「宣言」には法的強制力はありません。しかし、県民の生活を守る義務として知事は宣言を発出し、国民自らも行動を自粛をした。それが一定の結果を出したと考えています。
では、地方自治体に対策を委ねたらいいのか、国の責任はないのか。講座では、3つ目の柱に、国の責任は何なのか、第1波では出した緊急事態宣言を今回、国がなぜ出さなかったのかについて、解説しています。
政府が出した緊急事態宣言は2012年に施行された「新型インフルエンザ等特別対策措置法」に基づくものです。私は、「宣言」制度に問題があり、この法律の改正が必要だと考えています。
一つは、「宣言」を出すかどうか、その要件が抽象的な規定となっていることです。32条の規定では、「国民の生活及び経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態となった場合」としているだけです。規定を抽象的にせざるを得ないとすれば、その判断の手続きが大事です。しかし、政府が一体何を考慮し、どう判断して「宣言」を出したのかが、不明確なままです。しかも、「宣言」に基づく措置である「自粛要請」の影響、とりわけ経済活動に対する影響には、非常に大きなものがあるのに、国会の承認も必要ではありません。
「宣言」発出の要件明確化を
国民の自由・権利に対して大変重大な制限を及ぼすことになるので、民主主義的な手続きを経て、どのような政策判断に基づき「宣言」を発出し、国民の健康・生命に対するリスクをどのように取るのか。また、経済活動を制限することや、その影響をどのように踏まえたか、明らかにされるべきです。少なくとも、法律を改正し、「宣言」を出すに当たって、①要件を明確化する②科学的根拠を明確にする上でも、専門家会議の位置付け、役割を明確にする③国会の少なくとも事後承認を必要とする―ことが必要でしょう。講座では、強制力を伴わない「自粛要請」であっても、ダメージの大きさに鑑みて、「補償」を法で定めることがその実効性を高めるためにも急務だと強調しています。
第2波の収束、さらには第3波に備えるためにも、法改正で政府がやるべきことを明確化することが必要です。