消防も「効率化」でいいのか

 亀岡市以北の6消防本部は、119番通報などを受ける消防指令センターを、福知山市消防本部内に新たに設置して共同運用(※)する方針を打ち出しています。コスト削減や災害時の連携強化などが狙いですが、消防職員や識者らは「住民の安全につながるか慎重な議論が必要だ」と指摘します。

 6消防本部は、京丹後、舞鶴、福知山、綾部市の4市と宮津与謝(宮津市、与謝野町、伊根町)、京都中部(亀岡市、南丹市、京丹波町)の両消防組合で、7市3町が管轄地域となっています。

新センター予定地(福知山市)

 福知山市消防本部の資料によると共同運用のメリットとして○各消防本部の連携、情報共有で、大規模災害時に迅速な応援体制が図れる○指令システムの施設整備や維持管理の経費削減○指令課員を減員できる─が挙げられています。

 システム更新では、同市単独と比べ共同運用により負担額が約10分の1になると試算。指令課員については6本部の52人から22人に30人削減できると見込み、その分の人員を現場に配置することで体制強化につながるとしています。

 同本部によると共同運用の指令センターでは、6消防本部の職員が勤務しますが、管轄外の地域の通報を受けることもあるとしています。ただ指令課員は各地の地理の研修も行うとともに、通報者の位置がモニターに表示されることもあり対応できるとしています。

 しかし、指令の共同運用を近隣の5市3町村で行う愛知県の「豊橋市消防職員連絡会」によるとデメリットとして「管轄外の地理に疎く、周囲に目標物がない山林地帯などの場合、指令までに時間を要する場合がある」ことなどを挙げています。

現場の職員も「慎重議論を」

 全国の消防職員でつくる「消防職員ネットワーク」の松永幸雄会長は、「広域災害の面でも、各消防の出動・人員体制も異なるもと、迅速な応援体制が図れるかは疑問だ。また、共同運用の範囲が広大であり、地理とともに道路が狭いなどの地域特性、消火栓や防火水槽の場所など指令業務に必要な情報をマスターするのは困難だろう。いずれにせよ共同運用が住民の安全にとってプラスになるか慎重な議論が必要ではないか」と指摘します。

 また、国は、消防本部の統合という消防広域化を推進しています。2006年には「市町村の消防広域化の基本指針」を策定、その後、広域化の推進期限を2度延長し、24年までとしています。

 同指針では指令センターの共同運用の位置付けについて、各消防本部の人事交流などを通じ、「消防の連携・協力の中でも、消防の広域化につなげる効果が特に大きい」とし、「広域化の推進と併せて、積極的に検討する必要がある」としています。

国の狙いは広域化への誘導

 松永さんは、「人員体制や財政面の課題解消を共同運用で行うという発想では、その先は『単独で困難なら一本化しよう』と広域化へと至るのではないか。課題解決の理想は国が財政面で援助し、消防の充実を図ることではないか」と語ります。

 また、この間、国は人口減少社会の対策として、地方創生の名で行政サービスや公共施設の集約化と広域連携による「効率化」を進めてきました。奈良女子大学の中山徹教授は、「消防の共同運用や広域化もこうした国の進める流れに沿うもの。しかし、今のコロナ禍において、効率化のもと保健・医療分野の体制がぜい弱にされてきたことが問題化し、体制強化の必要性があらわになっている。こうしたもとで消防の分野でも効率化を進めていいのか問われている。特に近年多発する大規模自然災害の対策として、地域レベルで対応する消防の体制が必要でないか」と話しています。

 ※これまでは、各消防本部で119番通報を受け、各消防署への出動指令を行っていましたが、この業務を福知山市消防本部内に設置する指令センターに一元化するもの。共同運用の実施に必要な議案が、4市(京丹後、舞鶴、福知山、綾部)の9月定例会に提案されています。宮津与謝と京都中部の両消防組合では、組合議会の10月定例会に提案される予定です。議会の議決で共同運用が決定し、2024年4月の共同運用開始を目指しています。