池田豊氏

 「住んでよし、訪れてよし」の地域づくりこそ

 コロナ禍のもとで観光行政の転換が求められています。政府と京都市の観光行政の問題点について考えました。

 安倍政権のもとで、観光行政は大きく転換しました。観光立国の出発点である小泉内閣時代の2003年にまとめられた「観光立国懇談会報告」では、「観光は、住んでよし、訪れてよしの国づくり」と打ち出されました。

 ところが安倍政権が16年に策定した観光ビジョンでは、世界が訪れたくなる日本へと掲げ、そこでは公的施設の開放、文化財の保存から活用、地域資産の総動員、規制緩和と消費拡大で国の基幹産業とするとし、「全ての旅行者がストレスなく快適に観光を満喫できる環境に」として外国人旅行者の満足度を最優先し、オーバーツーリズム(観光公害)を招くに至る政策を進めました。

 計画では、今年開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックを含めた訪日外国人は4000万人、観光消費額8兆円でしたが、1~3月の訪日外国人は390万人で、4月~6月は7200人と激減しています。

京都市の楽観的目標は見直しを

 しかし、政府は7月から「GoTo」キャンペーンを開始しました。強行した背景にはその1週間前に「観光立国推進閣僚会議」で確認した「観光ビジョン実現プログラム2020」を作成したことにあります。

 そこでは2030年に訪日外国人6000万人の目標達成は可能と強調。そのために「GoTo」実施、宿泊施設の「稼ぐ」力の向上や、一刻も早い航空便の復活などで訪日外国人回復などを掲げています。国民が感染拡大の不安に声を上げるなか、「稼ぐ」ための観光を推進しているのです。

 京都市は14年の計画で、国と歩調を合わせながら、「観光消費額年間1兆円・外国人宿泊客数年間300万人」を掲げ、集客・囲い込みの観光行政にふみ出しました。富裕層の消費単価を引き上げ、宿泊客を急増させています。そのために「上質宿泊施設誘致制度」を作り、仁和寺門前ホテル計画などを呼び込んでいます。

 京都市観光協会が今年7月に発表した観光回復のロードマップでは、市内の主要ホテルの宿泊客数を年末には約8割、来年3月にはほぼ回復する計画を立てています。

 しかし現実には、激増した民泊やホテルの撤退も予想され、感染の新たな拡大も懸念されます。単一の楽観的希望による目標と政策決定ではなく、複数の対応プログラムを作成すべきです。

 観光行政を見直すべき時です。「住んでよし、訪れてよし」の地域を作ることを基本に据え、外需依存の「イベント集客」と「観光消費増」を目的とした観光行政から転換すべきです。  「新型コロナウイルス京都フォーラム」では、今後、コロナ禍での医療・介護分野の問題について考える企画を計画しています。引き続きコロナ禍と住民の暮らし・命の問題について問題提起していきたいと思います。