トンネル工事で発生する残土(掘削発生土)が880万立方㍍に上ると指摘した専門委員の「追加意見」

 北陸新幹線の延伸計画(敦賀─新大阪間)をめぐり、トンネル工事で発生する残土(掘削発生土)が「少なく見積もっても880万立方メートル」に上ると試算されていることが、このほど分かりました。府の環境影響評価専門委員が試算したもので、10トンダンプ160万台分に相当する量です。同委員は、残土取り扱いの事業計画の必要性も指摘しています。全国的に建設残土の処分が問題になる中、リニア中央新幹線や北海道新幹線延伸工事では、建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が処分方法を決めないまま着工するなど、各地で問題となっています。

 トンネル工事で発生する残土量が試算されたのは初めて。同事業では総延長140キロのうち約8割がトンネル区間になります。これについて、府内の残土処分業者は「とてつもない量。府内だけでは処分できないのではないか。残土をどうするのかあらかじめ決めておかないと、事業自体が続けられなくなると思う」と話します。

残土処理の計画が必要

 試算は、今年3月に開かれた府環境影響評価専門委員会(コロナ対策で傍聴なし)の資料として配布されました。環境影響評価方法書への府知事意見を審議するための会議で、委員の「追加意見」として添付されたもの。同計画について、「世界的に見ても一、二を争う非常に長いトンネル」になるとし、試算の結果、「少なく見積もっても880万立方メートルは発生し、甲子園球場に積み上げると228メートルの高さに匹敵する」と指摘。さらに、本事業内での再利用や、他の公共事業等への有効利用等で消費できる量ではないとし、一時保管地の広さも林地開発許可申請が必要な面積に達するとしています。

 そして、残土処分の具体的な事業計画が必要だと強調し、「周辺の環境に及ぼす影響についても調査、予測及び評価をする必要がある」「土砂災害や、洪水・浸水の観点からも適切な環境影響評価を実施し、周到な防災対策を講じる必要がある」と述べています。

 日本全体での建設残土の搬出量は2018年度で1億3263万立方メートル。このうち9396万立方メートルが内陸で処分されています(国土交通省建設副産物実態調査)。18年度の府内の建設残土量は約409万立方メートル(国交省建設副産物総活表)で、延伸工事だけで府全体の2年分以上の量となります。

 建設主体の鉄道・運輸機構は、環境影響評価方法書で、建設残土について、「環境影響については、方法書以降の手続きで検討」するとし、同事業内での再利用や他の公共事業での有効利用で「適切な処理を図る」としていますが、具体的な事業や用地は明記されていません。

 府知事が今年4月に同方法書に対して出した意見では、残土について、発生量・再利用量・運搬・処分などの方法について、詳細を明らかにするよう求めています。

 リニア中央新幹線の東京―名古屋(2027年開業)間の工事では、総延長438キロのうち約9割がトンネルで、自然破壊や水量減少などが問題になっています。同事業の環境影響評価書では、具体的な残土の処分地は示されていません。府の同資料でも、環境影響評価専門委員会事務局は「中央新幹線の事例では準備書でも具体的な土の搬出先は記載されていない。また、福井の湿地回避の事例はアセス手続の後に行われている」(配慮書に対する委員意見などの一覧)と明記しています。

 府内で最も残土を受け入れてきたのが城陽市東部丘陵地の城陽山砂利採取跡地整備公社です。19年度の残土受け入れ量は122万6727立方メートル。同地では、17年度の164万4654立方メートルをピークに受け入れ量を減らしています。同公社によると「新名神高速道路やアウトレットモールの開発などにより埋め立てる場所が減りつつある。今後、受け入れ量は減らしていく計画になっている」としています。

「試算」住民にも明らかにすべき、説明会では「示さない」

 延伸ルート上に想定される南丹市や右京区京北の住民からは、「残土処理の具体的方針と環境への影響を明確に示すべきだ」という意見が上がっています。

 南丹市美山町田歌(とうた)区では、現在のルートでの建設を前提とした環境影響評価の受け入れ拒否を表明しています。

 同区の長野宇規(たかのり)区長は、残土処理問題について、北海道新幹線の延伸工事でヒ素を含む有害残土の処分問題が発生していると指摘し、「北海道新幹線では処分先が決まっていない。過去の鉄道建設においても残土処理の問題はうやむやにされてきた。しかし公共工事においてこうしたことは本来許されない。府の専門委員の指摘はまったくその通りだ」と話しています。

 また、現ルートでの延伸計画そのものについて、「残土問題もあるが、そもそも、費用対効果の高い他ルートでなく、京都丹波高原国定公園内を通る現ルートが選定された合理的な理由が示されないまま、既成事実として進めることはおかしい」と語っています。

右京区京北山国地区 撮影:広瀬慎也

 同じくルート上に想定される京都市右京区京北の住民グループ「京北に新幹線が通る!? を理解する会」は、残土輸送に大量の大型車両が必要なことや仮置き場の確保などについて懸念を訴えてきました。

 メンバーの女性は、10月7日に京北で初めて開かれた鉄道・運輸機構の住民説明会では、想定される残土量の質問に対し、機構側は詳細ルートが決定しないと示せないと答えたといい、「住民には具体的なことを知らせずにすまそうという態度だと感じた。府の専門委員会で示された試算や指摘があるなら、住民にも情報として明らかにすべきだ」と不信感を示しました。

 また、東京外郭環状道路の大深度地下工事のルート上にある東京都調布市で10月18日、住宅街の一角にある道路が陥没した事例を挙げ、「北陸新幹線も大深度地下工事が想定されており、工事に対する懸念がより強まっている」と語りました。

「週刊京都民報」11月1日付より