1970年に建設され、文化発信の拠点となってきた府立文化芸術会館(文芸会館、京都市上京区)の開館50周年記念事業として創造音楽劇『あしたの森のチコ 2021年版』(脚本・演出 中田達幸、作曲 西邑由記子)が2月19、20の両日、同館で上演されました。

 『あしたの森のチコ』は、「ねずみくん」シリーズで知られる児童文学作家なかえよしをの絵本で、人間が引き起こした自然破壊、地球環境悪化の打開策を動物たちが話し合う『チコ~アニミズム会議の記録~』が原作。

 照明によって幻想的な森の雰囲気が演出されるなか、演劇人が熱演。京都出身・拠点に活動する音楽家が演奏で舞台に彩りと躍動感、ダンサーが深みと空間の広がりを与えました。

 企画は最初、京都の劇団が毎年、協力して取り組んでいる「Kyoto演劇フェスティバル」の企画の一つで、人形劇公演として2018年春に発案されましたが、脚本の内容から役者が演じ、様々なジャンルのアーティストが集う50周年記念企画へと発展しました。

 同館スタッフが舞台監督、照明、音響、企画制作を担当。同館スタッフに育てられ、公演で世話になってきた様々なジャンルのアーティストが、同館への信頼を軸に“混成チーム”として結束し、本番に向け稽古を重ねました。演劇や音楽劇を専門にしてきたアーティストは少数。人形劇人やダンサーは、今まであまり経験してこなかった俳優として演じ、歌もこなすことに。最終盤は、歌唱レッスンに多くの時間が割かれたといいます。未来を見据え舞台経験の少ない高校生も参加するなど、年齢・キャリアに関係なく、それぞれが新たな可能性に挑戦する取り組みとなりました。

文化創造の伝統次世代へ

 文芸会館は、「文化・芸術は、平和のシンボルであり、平和を願う人びとの祈りの歴史であり、人生を豊かにする人間の働きである」と主張してきた故・蜷川虎三知事のもと、計画段階から一流アーティストの意念を聞いて建設。名優・宇野重吉も「ポケットに入れて持って帰りたい」と高く評しました。「貸館だけではいけない。府民のためになる自主公演の企画を」と、京都の地元劇団が共同して開催する「府民劇場」や、アマチュア劇団の指導と「働くものの演劇祭」の開催、京都にゆかりのある物語をシナリオから創作する合同公演にも挑戦してきました。

 開館5周年には、京都新劇団協議会として『琵琶湖疎水物語―河ひらく時代』を上演。20周年には同協議会のほか、小劇場の「M・O・P」「そとばこまち」や「京都自立劇団協議会」、東映京都芸能などの俳優、狂言師の二世茂山千之丞、茂山あきらら約60人により、井上ひさし脚本の時代劇ミュージカル『天保十二年のシェイクスピア』が上演されました。地元劇団を支援・育成する取り組みは、「Kyoto演劇フェスティバル」に引き継がれました。

 同館の事業を担当する上田晶人主任は「今回の公演の成功は、開館以来、京都独自の文化を創造していこうとするアーティストと会館スタッフの絆、蓄積の上にあった。この伝統を次の世代につなげていきたい」と語っています。