中林浩さん

 京都市は4月7日、高さ規制を超える建物を一定の条件下で認める市の「特例許可制度」について、公的施設が主だったものを民間施設にも対象を拡大することを都市計画決定し、運用を始めました。高さ規制緩和には、「新景観政策の理念に反する」と多くの市民から反対意見が寄せられていました。今回の規制緩和の問題点や今後の京都のまちへの影響などについて、都市計画家で京都・まちづくり市民会議代表の中林浩さんに聞きました。

 ─民間施設への拡大の問題点は

 民間施設も加える根拠に、「まちづくりに貢献する建築物」という基準が加えられました。しかし、あいまいな基準でしかなく、これではどんな建築でも特例を認めようということになります。

 逆に、特例に当たらないような他の建築は、よいまちをつくるのに貢献していないのかということになります。大多数の施主や建設業者に、大変失礼な制度だといえます。当たり前過ぎる基準は、かえって疑問が大きいのです。

 もともと、従来の規則で、特例が許可されたのは十数年間で9件だけでした。それなりにハードルが高かったということができます。

 一番最初に特例となったのは、京都大学医学部付属病院です。これも問題がありました。周囲が高さ15㍍になっているところを、京大病院の敷地は、大学であることを配慮して高さ規制が20㍍でした。そこを、病院は「特例」にできるというので、さらに二段階引き上げて31㍍まで認めたのです。病院だからできたという面があるのですが、すべての建築に広げようというのは強引です。

 ―今後の懸念は

 「まちづくりに貢献する」というのは当然すぎる表現なので、どんな建設活動も容易に「貢献する」と詭弁を使うことができます。乱開発を促進しそうな構想があった場合も、「まちづくりに貢献」するとなれば、基準以上に高い建築にゴーサインが出せるということになります。

一部の合意で「特例」許可に

 市は、今回の規制緩和で、「小さなまちの集合体である京都の都市特性に合った仕組みをつくる」という文言を振りかざしています。小さい単位で秩序だった町をつくるのは都市計画の基本理念ですが、今さら何を言い出したのかと驚きました。

 こう言っている意図は全市的とか広域の合意がなくても、当該地域の自治連合会だけの合意をとれば特例を認めようということです。一部役員の合意をとり、地元合意があったとするのは、京都市の得意とするところです。

 ―京都のまちづくりに求められるのは

 市は、〝高さ制限がオフィス不足や(1戸当たりが高価格になるため)子育て世帯の流出をもたらしている〟という論調を広めています。これはまったくの事実無根です。町の形の上で重要なのは、建物の高さを住宅地で2階建て、都心や商業地で4階建てを基本とすること、駐車場だらけの町にしないことです。このスケール感が商工業を含め人が多様に活動でき、人がたくさん住める効率的な町をつくりあげます。また重要なのは、建築でも工作物でも、すでにあるものは可能な限り修復して使うことです。長く大切に使うとか、丁寧に手を入れるということが、にじみ出るような町の美観をつくり出します。

まちづくり運動が新景観政策に

 そして、なによりも住民参加で町をつくることです。これまで起こってきた建築紛争・反対運動は貴重な財産です。1990年代までのまちづくり運動が主張してきた内容が、「新景観政策」をつくりあげました。まちづくり運動はたいへんシビアです。役所や業者は仕事時間を使って応対していますが、運動の側は手弁当で、夜も話し合います。それでも楽しいのです。運動の過程で地域の歴史を調べたりすると多様な発見があり、知的な充実感を得られます。知り合いでなかった人と親しくなるし、各地で運動をしている人とも連帯する喜びが得られます。こうしたまちづくり運動を広げることにつきます。