「ヘイトクライムと認定し、厳罰を」被害者が意見陳述/ウトロ・ヘイトクライム裁判 判決は8月30日
戦前、軍事飛行場建設のために集められた在日コリアンにより形成された集落、宇治市のウトロ地区で、ウトロ平和祈念館に展示予定の看板や、看板を保管していた空き家などに放火したとして、非現住建造物等放火罪などに問われた奈良県桜井市の無職有本匠吾(しょうご)被告(22)の第3回公判が6月21日、京都地裁でありました。被害者が意見陳述し、在日コリアンを狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)として、厳正な処分を求めましたが、検察側は、論告で「ヘイトクライム」「差別」などの言葉は用いず、懲役4年を求刑し、結審しました。判決は8月30日に出されます。
有本被告は、昨年8月30日、ウトロ地区で7棟を全半焼させて起訴され、7月24日には、愛知県名古屋市でも在日本大韓民国民団(民団)愛知県地方本部と名古屋韓国学校に放火し器物損壊などで起訴され、同月29日には、奈良県大和高田市の民団施設に火をつけようとして非現住建造物等放火未遂容疑で書類送検(不起訴)されました。ウトロ地区と名古屋市の両事件が、京都地裁で審理されました。
有本被告は、初公判(今年5月16日)で起訴内容を認め、第2回公判(6月7日)の被告人質問で、放火の動機についてウトロ平和祈念館の展示阻止、表現の不自由展での「慰安婦」像設置関与者への抗議、などだとし、被害者に対しては、「私のやり方は、人命のみならず、恐怖や危機感を与えてしまうものである。後悔はない」などと答えていました。
第3回公判では、被害者の ウトロ平和祈念館の金秀煥(キム・スファン)副館長、自宅が半焼となり焼け出されたウトロ地区の住民、民団愛知県地方本部の趙鐵男(チョ・チョルナム)事務局長が意見陳述。
金副館長は、「差別よる凶悪犯罪でなく、単なる放火事件して寛容に処罰されるなら、ヘイトクライムをさらに助長させ、在日朝鮮人をはじめとする多くのマイノリティーは安心した生活を送れなくなる」と人種差別撤廃条約に基づく厳正な判決を要求。
ウトロ地区の住民は「どうして私たちが生活のすべてを失い、子どもたちを危険にさらさらなければいけないのか」と訴え。
趙事務局長も在日韓国人を標的にするヘイトクライムだとして厳しい処分を求めました。
検事は、失職によるうさばらしで、世間から注目を浴びるためのものだと強調。「ヘイトクライム」「差別」との言葉は一切使用せず、懲役4年を求刑しました。
公判の最後に被告人が最終陳述。反省する態度を一切見せなかったどころか、(在日コリアンが)「戦争被害者ゆえに国民以上に支援を受けている」と事実無根の認識に立ち、「こうした人々へのヘイトクライムに関する感情を抱いている人は国内のみならずいたるところにいる」と、ヘイトクライムを公然と肯定。「今後、(今回以上の事件が起こり)命を失うこともなるかもしれない」と〝恐喝〟とも取れる発言で、傍聴人に衝撃を与えました。
「私たちが去らねばならないのか」「これがヘイトクライムでなければ、なにがヘイトクライムなのか」
被害者弁護団が会見、報告集会
公判終了後に被害者弁護団が京都弁護士会館で記者会見と市民報告集会を開催しました。ヘイトクライムを肯定し開き直る被告人の最終陳述と「ヘイトクライム」「差別」に言及しない検事の論告に批判が集中しました。
最終陳述については、在日コリアンから「(被告人がこのまま)社会に戻ってくるのであれば、私たちが去らなければいけないのか」「動悸が止まらなくなった」などの感想が出されました。
郭辰雄(カク・チヌン)ウトロ民間基金財団理事長は「背中がぞっと冷たくなった。日本は、第2次世界大戦で(他民族への差別をもとに)多大な被害を生み出し、その反省のもとで、国際条約、日本国憲法がつくられた。差別は人を殺すという認識を持つべきだ」と訴えました。
ヘイトクライム問題に取り組み、神奈川県川崎市から傍聴に駆け付けた神原元・弁護士は「凶悪犯罪の予言を裁判所でやるのは初めて見た」とし、「被告人は安倍政権下で青春を過ごし、(同政権を許した)マジョリティーが生み出したモンスター。社会を変えなければ」と述べました。
論告について、豊福誠二弁護団長は、「人種差別撤廃条約第1条の定義にぴったりありあてはまる事件。これがヘイトクライムでなければ、何がヘイトクライムなのか」と語気を荒げました。
検察にヘイトクライムに関する意見書を提出した板垣竜太・同志社大学教授は、「事件は在日コリアンに(広くいつか自分も攻撃されるという)トラウマ的なものを起こさせており、意見書ではヘイトクライムは被害・加害両面で社会的な犯罪だと強調したが、論告はそれらをすべて個人化しており、本当にあきれた」と語りました。