『ブルーアイランド 憂鬱之島』 ©2022 Blue Island project

京都シネマで7月22日公開

 中国政府が、「高度な自治を認める」との公約に反し、市民的、政治的自由を踏みにじっていることに国際社会の批判を浴びるなか、香港での自由と民主主義を求める運動の過去と現在とを結んだ映画『ブルーアイランド 憂鬱之島』(香港・日本、2022年)が7月22日、京都シネマ(京都市下京区)で公開されます。チャン・ジーウン監督に、製作の動機などを聞きました。

チャン・ジーウン監督

 チャン監督は、若者たちが真の普通選挙制度実現を求めて立ち上がった「雨傘運動」(2014年)の長編ドキュメンタリー『乱世備忘 僕らの雨傘運動』(香港、2016年製作)で17年、山形国際ドキュメンタリー映画祭小川紳介賞を受賞するなど注目を集めました。

 同作で監督は出演者に「20年後に信念を失っているのが怖いか」と問いかけましたが、雨傘運動の指導者が次々と逮捕されるなか、この問いはたちまち自らに突き付けられることになったと言います。

 香港における自由と民主主義を求める軌跡を掘り下げ、今後の方策を模索しようと製作されたのが本作。製作資金は、クラウドファンディングで集められました。

 ▽文化大革命(1966~76年)からのがれた知識人が、泳いで香港に渡った香港逃亡ブーム▽香港の親中派が英国政府に抵抗した67年の香港六七暴動▽89年の天安門事件―の3つの事件にスポットを当て、英国、中国本土との関係で香港社会を見つめ直すとともに、2019年、容疑者の身柄を中国本土に引き渡せるようにする条例改正案の抗議運動(=反送中運動)にもカメラを向けています。

 文化大革命の際、恋人と海を渡り香港に逃れたチャン・ハックジー氏(74)、香港六七暴動の際、中国本国寄りの文芸誌を配布して16歳で投獄されたセッ・チョンイェン氏(71)、1989年、天安門前でデモを繰り広げる学生支援のため香港からかけつけ、惨事に遭遇したケネス・ラム氏(54)―運動の当事者3人が出演しています。

 さらに、3人の事件当時の状況を伝えるため、若者の演技で再現する演出も試みています。

 チャン氏役を両親が本土から渡ったアンソン・シェム氏(24)、ケネス氏役を反送中運動の学生代表で、公務執行妨害罪で逮捕・起訴された(実刑)キース・フォン氏(23)、セッ氏役を反送中運動のデモに参加し、暴動罪で逮捕・起訴された(実刑)ケルビン・タム氏(21)がそれぞれ演じ、過去の事件、現在の香港や自身についてコメントしています。

 事件当事者と役柄を演じた青年が対話する場面もあり、香港民主化運動の過去と現在が有機的に語られています。

 作品は製作したものの、残念ながら香港での上映は困難と監督は見ています。

 中国政府が2020年6月、政府批判を禁じ、最高刑を無期懲役とする香港国家安全維持法(国安法)を制定し、昨年10月には、香港立法会(議会)が、映画を検閲し、「国家安全保障」上脅威と見なされる場合は上映を禁止する条例を可決したからです。

 映画の後半では、民主化運動が弾圧されていく現在の香港の状況を伝えながら、その中でも抵抗する人々の強い意志を表現しました。これは監督の思いの代弁でもあります。

 雨傘運動の主導者9人に有罪判決が下された公判(2019年)におけるリーダー、イーソン・チョン氏の被告人陳述も報じています。

 「条文、権力、体制に押し込められたくない。導いてくれる聖人はどこにもいません。道に迷い、力尽きて倒れるかもしれません。それでも我々は再び立ち上がる」

 ラストには、逮捕された活動家一人ひとりの姿を罪状も明記して紹介。エンディングロールでは、収監された出演者やスタッフの名前一字一字を四角で囲んでいます。  日本での上映に期待を寄せるチャン監督。係争中に出演してくれた若者らの勇気に感謝するとともに、「現在、香港では自由が奪われ、暗闇の中にいるような状況になっている。にもかかわらず、自分を失わず、信念を貫いている人がたくさんいることをこの作品を見て知ってほしい」と訴えています。