三世千之丞「花子」2018年の襲名披露公演 金剛能楽堂

 伝統芸能に新風を吹き込み、反戦を訴え続けた狂言役者・二世茂山千之丞(【せんのじょう】本名・政次、1923―2010)が今年生誕100年を迎えることを記念した茂山狂言会が23日、京都市上京区の金剛能楽堂で開かれます。二世が好きだった大曲「花子」や「薩摩守(さつまのかみ)」、二世作・演出の新作狂言「妙音へのへの物語」を上演し、三世千之丞が「花子」のシテ(主役)を勤めます。

 二世千之丞は、狂言師が他のジャンルと交流することがタブー視されていた時代に、演劇評論家で演出家、映画監督でもある武智鉄二の手がける歌舞伎や映画『紅閨夢(こうけいむ)』『源氏物語』などに出演し、能楽協会から退会勧告を受けたこともありますが、後身が様々な分野の舞台に立てるよう道を開きました。スーパー狂言など新作狂言の制作・演出にも努めました。

 出征した経験から、憲法9条京都の会結成時から呼びかけ人になるなど、反戦・平和、憲法の大切さを説き続けました。

二世千之丞

 三世は、祖父の二世に狂言を習い、新作狂言や新作コントもつくり、演劇の演出なども手がけますが「祖父はとにかくいろんなことにチャレンジしてきたので、私が少々新しいことをやっても、『千之丞の孫やから』と、皆にあまり驚いてもらえない。自分がやりたいことを自由にやっていることを祖父は喜んでくれていると思う」と語ります。

 今回の演目「花子」は、馴染みとなった遊女に会うため、妻に「一晩こもって座禅する」と偽って出発するも、妻に知られてしまいます。

 極重習(ごくおもならい)に定められて重要視され、一生のうちで何度も演じない曲とされています。ところが、美声でならした二世は、華やかな謡と舞のある後半を好み、狂言「花子」が取り入れられた歌舞伎の『身替座禅』の二代目中村鴈治郎の芸にも学び、「お気軽『花子』」と称した軽妙な演出で再三上演しました。

 『薩摩守』の船頭役も好んで演じ、櫓(ろ)のこぎ方にリアリズムを追求しました。

 『妙音へのへの物語』は、おとぎ草紙『福富草子』をもとに、二世が書き下ろし、演出したもの。おならを自在に鳴らす術が人気を呼んで織部が長者となったことをうらやんだ隣家の藤太が織部に弟子入りしますが、中納言の前で披露するも、大失態を演じ、妻・おくまに追いかけられます。

 配役は、織部を七五三から宗彦、藤太をあきらから茂、おくまを茂から千五郎、中納言を逸平から慶和(よしかず)、狂言まわしの右近丸、左近丸を竜正(たつまさ)、虎真(とらまさ)に変え、次世代に継承できるよう心掛けました。

 2018年の襲名以来、「花子」のシテを勤めるのは2度目となる三世千之丞。「襲名の際には、従来の型にのっとり、重々しく演じました。今回からは二世のように軽めにし、しかも、今の自分にふさわしい演出を考えて演じていきたい」と語ります。

 午後2時(1時半開場)。S席8000円、A席6000円、学生席2000円、小学生席1000円。問い合わせ℡075・221・8371(茂山狂言会事務局)。