講演する正置さん(3月20日、向日市)

 向日市の絵本専門店「Books&Cafe Wonderland(ワンダーランド)」は3月20日、開店30周年を迎えた記念講演会を、同市内で開きました。絵本研究家が絵本の持つ奥深い可能性や作家が込めた思いなどについて語り、保育士や出版関係者、読み聞かせに参加する市民ら40人が熱心に聞き入りました。

 講演したのは大阪府吹田市で絵本学研究所(大阪府吹田市)を主宰する正置友子さん。

 正置さんは自身の著書『生きるための絵本―命生まれる時から命尽きる時までの絵本127冊』の掲載本を中心に、0歳児から大人まで楽しめる絵本を紹介。絵本を読み上げ、子どもとのエピソードも交えながら、「絵本は暮らしの中にある総合芸術。人間性、人と人の関係性を豊かにする可能性がある」と強調しました。

 文字を読むだけでなく、絵もじっくり見て味わってほしいと述べ、絵の大きさや色の濃淡に込めた作者の意図を解説。板目(いため)木版で描かれた『おおはくちょうのそら』では、死んでしまった子どものハクチョウの姿が画面いっぱいに描かれた力強さを紹介し、「すごいエネルギッシュ。水彩とは違う迫力、命を感じます」と述べ、表紙から扉、裏表紙まですべてが絵本だと思って読んでほしいと話しました。

 絵本『ちょうちょ はやくこないかな』(甲斐伸枝・作)は、読み聞かせをした2歳児がチョウに来てほしい小さな花の気持ちを自身に重ね、絵本の中の物語を生きていると感じたことを述べ、幼児期に絵本に触れる重要性を指摘しました。

 また、戦争の時代を生き、難民として8年間過ごしたポーランドのユリー・シュルビッツ(90)が、39歳で描いた美しい絵本『よあけ』を紹介。作家の一生を知ることで作品を深く読み取ることができるとして、「大人にも読んでほしい作品がたくさんあります。明日の時代をつくるのは今の子どもたち。どのような本、絵本を手渡すのか、どのような教育、社会環境を提供するのかは大人の責任」と力を込めました。

作り手と読者つなぐ架け橋に

 ワンダーランド店主の長谷川みゆきさんは、子どもの幼稚園で読んだ絵本がきっかけで、正置さんの講演「THE Sense of Wonder」を聞いて感銘を受け、絵本店を志した経過を語りました。「作家や出版社など多くの人たちとの出会いがあり、作り手と読者をつなぐ架け橋になりたい」と講演会や原画展を重ねてきた経験を振り返りました。

 30周年を記念して、浜田桂子さんの『あやちゃんのうまれたひ』の原画展が4月5日までワンダーランドで開催中です。長谷川さんは店のキャッチコピー「本から吹いてくる風 大好きな風」は浜田さんからいただいたとして、「絵本から生まれる喜びを感じてほしい」と話しています。

 Books&Cafe Wonderland 向日市寺戸町久々相8-2 ℡075・931・4031。火曜から金曜は午前9時から午後6時、土日は正午から午後6時。日・月定休。http://www.wonderland1995.com/

開店から30周年を迎えたワンダーランド(向日市)