『杳かなる』©映画「杳かなる上映委員会)

 筋肉が徐々に動かなくなる難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者に寄り添い、命の尊厳や社会の在り方を問うドキュメンタリー映画『杳(はる)かなる』(宍戸大裕(ししど・だいすけ)監督、2024年、124分)が4月11日から京都シネマ(京都市下京区)で上映されます。

 登場するのは患者の佐藤裕美さんや岡部宏生さんら。佐藤さんは会社役員で、東日本大震災の被災地支援のボランティアを行うほか、毎週のように夫と登山に行っていました。2014年、富士山の登山後、歩きづらさを感じ、18年にALSと診断されました。

 ALSは、症状が進行すれば、声も出せなくなり、意思を通わせることも困難になります。自力で呼吸できなくなるため、そのまま死を迎えるのか、気管切開し、人工呼吸器を装着するのか─選択が問われます。

 押し寄せる不安に押しつぶされそうになるなか、心の支えとなったのが、先輩患者の岡部さんでした。

 岡部さんはコンサルタント会社の元社長。乗馬もたしなんでいましたが、06年に発症。人工呼吸器を付けようとは思っていませんでしたが、先輩患者に支えられ、装着し生きていくことに。重度障がい者やその家族になっても自分らしく生き、安全に安心して生活できる社会を目指して「NPO法人境を越えて」を設立しました。

宍戸監督

 監督・構成・編集を担当した宍戸大裕さんは、宮城県出身。民医連加盟の施設職員の両親の下で育ちました。

 早稲田大学在学中に、都民に愛される高尾山へのトンネル開発に反対する運動に関わります。この運動を記録した『高尾山 二十四年目の記憶』(2008年)で監督デビュー。

 被災地に残されたペットを取材した『犬と猫と人間と2 動物たちの大震災』(13年公開)や人工呼吸器を使用している患者を追った『風は生きよという』(16年公開)などを制作してきました。

ALS嘱託殺人事件が制作の契機

 今作は、19年に京都のALS患者の女性が医師に薬物投与を依頼して亡くなった事件に触発され企画しました。

 「こんな状態なら死んだほうが本人のため」などと人々の生活や命を社会が支えるのではなく、個人の責任とする主張がSNSなどでも発信されたことに危機感を覚えたからです。

 知人の紹介で、佐藤さんを取材することができました。岡部さんらの患者やヘルパー、支援者らにもカメラを向けました。

 ALSやがんなどの病を安楽死の制度化とつなげる主張が公然と行われるようになるなか、宍戸監督は、死に対する議論を先鋭化させ、弱者を切り捨てようとする動きや社会の在り方をけん制。痛みや苦しみをどう和らげるか工夫し、励ましあい、絶望せず生き続けようとする患者の日常の営みに光を当てています。

 京都での上映に向けて、宍戸監督は、尊敬してやまない労農党代議士・山本宣治の墓参りをしました。「弱者の立場に立ち、労働者・農民の命と暮らしを守るために命がけでたたかった山本宣治さんが活躍した京都で上映できるのはうれしい」と語っています。