京都 町家の草木

シラン

シラン
シラン【ラン科シラン属】 雨の降ったあとは、芽吹いた草木の緑がひと息に庭を呑みこむ勢い。初々しくそよ吹く緑の風に素肌をさらして「あの空の向こう、どこまでも飛んでゆけたらな」と、遠い空にぼんやり視線を投じてみる。
 庭を飾るしっかりとした色の大きな花々は、透き通った皐月の陽に我が身を輝かせて誇らしげ。そんな庭の傍らにひっそりと、うつむき気味にシランは花を咲かせる。
 うっすらと紫をさした白い花。小さく震えるいく筋ものヒダ。思わず顔を近づけて、じっと見入ってしまう。
 それだけで充分。この花に勝手な人間の賛辞なんかいらない。この花が静かに魅惑を放って待っているのは、この花の形にピタリと収まる昆虫の飛来。
 ないしょのランデヴー。
 そこがまた、この花をいっそう魅惑的にする。
2009年5月 3日 10:38 |コメント0
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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