京都 町家の草木

薔薇

薔薇
バラ【バラ科バラ属】 祖母が亡くなってからずっと長い間、庭の薔薇は自然に任せっきりになっていた。
 世話をしてくれるもんぺ姿の主が庭から消えてしまってからというもの、チュウレンジ蜂の幼虫に葉を食べ尽くされ、はたまた病気になって葉を落とし、枝は剪定されることも忘れられた。
 それでも「私、ここにいるわ」と、精いっぱい背伸びをした枝先には、いつも一輪の花があった。 
 そして、祖母を想った。
 今、この花の世話をしながら、かつて祖母と花々が交わしていた心のつぶやきを聞くような気がする。
 豊富な肥やしが大好物の薔薇は、お世話されるのも大好き。そのぶん、立派な蕾をつける。朝露に濡れた大きな花は枝先を深々とお辞儀させて「さあ、早く私を一輪挿しにいけて、傍で眺めてちょうだい」と、大袈裟に言わんばかり。
 でも、長い間ほったらかしにされて肥やしを充分に与えられなくとも、薔薇は忘れられた訳ではなかった。しおらしく咲いた花は、必ず母の心には届いていた。
「ほら、見とおみ。お婆ちゃんの薔薇が咲いたえ。ええ香りやなあ。」
 嬉しそうに薔薇の花を器に挿す指先は、いつも優しさに溢れている。
 祖母と母と子。それぞれが花と語らっている。
2009年5月14日 10:52 |コメント0
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

京都 町家の草木の新着

コメントを投稿

コメントは、京都民報Web編集局が承認するまで表示されません。
承認作業は平日の10時から18時の営業時間帯に行います。




メールアドレスは公開されません



京都の集会・行事