京都 町家の草木

檜扇

檜扇
ヒオウギ【アヤメ科ヒオウギ属】
種子はぬば玉あるいはうば玉という

 鉾建ても始まって、いよいよお祭り。

 檜扇は、この時分の室礼には欠かせない花として、八坂神社の氏子の家々に求められる。町のお店のウィンドウにも檜扇が生けてあるのを目にすることしばしば。座敷の床にこの花を見ると、お祭りに高揚した騒がしい気持ちも、すうっと落ち着くほど凛とした姿。

 心を整えて神事の日々、年に一度の「ハレ」を迎える。
 順序よく交互に、まるで扇を開いたかのように広がる葉。その葉の間から首を出し、扇の真ん中の天辺に顔をのぞかせる花は、やっぱり朱色。立花の覚えのない私には、とうてい手に負えない格式ある花。花器だけ準備して、心得ある花屋さんに持ってきて生けてもらうことにする。
 それにしても、すこし反らせ気味に広がる葉の重なりの力強いこと。その姿は、さながら平等院の屋根の上の鳳凰。羽を広げて胸を反らした堂々たる雄鳥にも見えてくる。
 遠い過去の記憶を想像の世界でふたたび体験しながら、いま目の前にある檜扇のもつ形の力を絵筆にたくしたい。
 庭に生えていない檜扇の種を、私は知らない。その種子は、ぬば玉あるいはうば玉というらしい。きっと、艶ある黒く丸い玉が一つぽろりと付くのだろうと想像しながら、原色牧野植物大図鑑で調べてみる。すると、一つの果実は無数の種子を蓄えていて、一粒は思いのほか小さい。幻影と現実。
2009年7月10日 14:32 |コメント0
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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