ワスレグサ【ユリ科ワスレグサ属】
別名は、やぶかんぞう。萱の字は「わすれる」という字。中国にはこの花を見て憂いを忘れるという故事があるらしい。
葉は細長く、根元から一筋ごとに左右に分かれながら伸びる。あまり堅くない葉は折れやすく、力なく垂れて庭に無造作な茂りをつくりだす。
でも、六月も半ばとなる頃、その葉の茂みから、まさに鉾の真木がすっくと建つように、一本のしっかりとした茎がぐんぐん伸び始める。その先には鉾頭ならぬ花芽が付く。
庭に、この花芽が立ち並ぶ様を目にするたび、巡行で四条通を東に進む鉾頭の並ぶ景色が蘇る。
別名は、やぶかんぞう。萱の字は「わすれる」という字。中国にはこの花を見て憂いを忘れるという故事があるらしい。
葉は細長く、根元から一筋ごとに左右に分かれながら伸びる。あまり堅くない葉は折れやすく、力なく垂れて庭に無造作な茂りをつくりだす。
でも、六月も半ばとなる頃、その葉の茂みから、まさに鉾の真木がすっくと建つように、一本のしっかりとした茎がぐんぐん伸び始める。その先には鉾頭ならぬ花芽が付く。
庭に、この花芽が立ち並ぶ様を目にするたび、巡行で四条通を東に進む鉾頭の並ぶ景色が蘇る。
くしゅくしゅっとした八重の開き具合。
「これで、開いたのかしら」と思いながら一日を過ごす。
宵に再び目をやると、もう花はおしまい。そう、萱草は一日花。
「たった一日の開花に、この花は何を予感しているかしら」 しぼんだ花から目を離し、闇の訪れの遅い空を見上げると、こうもりが忙しく飛び回っている。
昔、庭の竹垣の隙間に爪が引っかかって、夜が明けてもねぐらへ帰れなくなった蝙蝠を助けたことがあった。
黒くて小さい体は、ふわふわとした毛に覆われて。威嚇を試みた口元には小さな牙が見えていた。まるい綿ぼこりを手にしたような切ない軽さが、掌で小さな鼓動を懸命に響かせていた。小さな箱に空気穴を開けて、そっと蓋を閉じる。
夕暮れ時、箱を開けて庭に置いてやると、いつの間にかその姿は無くなって、空に蝙蝠の影。安堵と寂寥を感じながら空箱を手にすると、置きみやげが底にひとつ。黒いシミとなって残っていた。
「これで、開いたのかしら」と思いながら一日を過ごす。
宵に再び目をやると、もう花はおしまい。そう、萱草は一日花。
「たった一日の開花に、この花は何を予感しているかしら」 しぼんだ花から目を離し、闇の訪れの遅い空を見上げると、こうもりが忙しく飛び回っている。
昔、庭の竹垣の隙間に爪が引っかかって、夜が明けてもねぐらへ帰れなくなった蝙蝠を助けたことがあった。
黒くて小さい体は、ふわふわとした毛に覆われて。威嚇を試みた口元には小さな牙が見えていた。まるい綿ぼこりを手にしたような切ない軽さが、掌で小さな鼓動を懸命に響かせていた。小さな箱に空気穴を開けて、そっと蓋を閉じる。
夕暮れ時、箱を開けて庭に置いてやると、いつの間にかその姿は無くなって、空に蝙蝠の影。安堵と寂寥を感じながら空箱を手にすると、置きみやげが底にひとつ。黒いシミとなって残っていた。