ノウゼンカズラ【ノウゼンカズラ科ノウゼンカズラ属】
樹齢三十年を超えたのうぜんかづらは、泰山木の脇に植えられている。その幹は、ささくれ立って乾いた薄皮の細切れに守られながら、緩やかに螺旋を描いて這い上がっている。若い枝は蔓性ながら、朝顔のように巻き付くのではなく、葉の生えぎわから気根を海松(みる)状に生やして近くの樹木の肌にしっかりとへばり付いて伸びる。泰山木を頼りに伸びた若い蔓を選定して取り除いても、木肌には気根の痕が痛々しく点々と。蔓のしなやかさに秘められた執着や、恐るべし。
樹齢三十年を超えたのうぜんかづらは、泰山木の脇に植えられている。その幹は、ささくれ立って乾いた薄皮の細切れに守られながら、緩やかに螺旋を描いて這い上がっている。若い枝は蔓性ながら、朝顔のように巻き付くのではなく、葉の生えぎわから気根を海松(みる)状に生やして近くの樹木の肌にしっかりとへばり付いて伸びる。泰山木を頼りに伸びた若い蔓を選定して取り除いても、木肌には気根の痕が痛々しく点々と。蔓のしなやかさに秘められた執着や、恐るべし。
藤棚のように仕立てると、いずれ花芽をいくつも付けた茎がアールヌーヴォー好みな弧を宙に描いて垂れ下がる。優しい朱色の柔らかな花は、たった一日かぎり。それも、茎には萼の袴と雌蘂だけを残して、いともあっさりと花を脱ぎ捨ててしまうことも少なからず。地面には、落ちた花があちらこちらに散らばって、梅雨明けの日差しに照りつけられる。
真夏の眩しい庭には、せっせとこの落花を拾い集める母の姿がある。平たい水盤に浮かべられた花は、夏の薄暗い部屋に陽のかけらを持ち込んだかのように、そこだけやさしく照っている。
「そうか、夏の陽を拾っていたのだな」
小さな蟻も一緒に付いてきて、思わぬ場所を歩いていたりする。花は、たっぷりと蜜を蓄えているから、庭の幹には蟻の行列が幾筋も続き、どの花にも何匹もの小蟻が歩いている。
「おやおや、お前は仲間の元へお帰り」
蟻は、葉っぱに載せて庭の元いたところへ。
「そんなに美味しい蜜なら、どれどれ、私もお加減見」。早朝、咲いたばかりの花をうつむけに振って、蜜を小皿に受けてみる。水のように透明な露が数滴。さらっとした甘露が舌を滑って消える。
真夏の眩しい庭には、せっせとこの落花を拾い集める母の姿がある。平たい水盤に浮かべられた花は、夏の薄暗い部屋に陽のかけらを持ち込んだかのように、そこだけやさしく照っている。
「そうか、夏の陽を拾っていたのだな」
小さな蟻も一緒に付いてきて、思わぬ場所を歩いていたりする。花は、たっぷりと蜜を蓄えているから、庭の幹には蟻の行列が幾筋も続き、どの花にも何匹もの小蟻が歩いている。
「おやおや、お前は仲間の元へお帰り」
蟻は、葉っぱに載せて庭の元いたところへ。
「そんなに美味しい蜜なら、どれどれ、私もお加減見」。早朝、咲いたばかりの花をうつむけに振って、蜜を小皿に受けてみる。水のように透明な露が数滴。さらっとした甘露が舌を滑って消える。