京都 町家の草木

葡萄

葡萄
ブドウ【ブドウ科ブドウ属】
 昔の葡萄は、実が小さくて種が入っていた。一粒一粒口へ運んでは皮と種を出して、ちょっと面倒くさく思ったものだった。そのうち、種なし葡萄が世に現れ、そして巨峰なる大粒でたいそうな甘みの葡萄が出始めた。これはなかなか高価な果物。
 戴いた巨峰の大きな房をお台所に見つけたある日。いく粒か手に取って庭へ。
「これこれ、お行儀の悪いこと。ちゃんと座っておあがりやす」。母に窘(たしな)められながら、お庭でぱくり。
「こんな美味しい実が庭にも出来ひんかな」と、もくろんで種は庭へ撒いておいた。かれこれ30年も前のこと。
 ある年、一本の蔓が伸びてきた。実生の葡萄。自らの生命の力で生え出てきたから、傍の泰山木を頼りにその成長も自然に任せて葡萄棚も作らずにいた。それから数年は、房をいくつも付けてくれたっけ。それもだんだん小房になって、いつしか葉だけに。チーズを食卓に出すときのお皿に敷いて楽しむばかりとなった。葡萄は、そう、バッカスの頭上を飾った植物。生命を象徴する樹。ワインとチーズに葡萄の葉。この組み合わせは理にかなっている。
 今年は久し振りに実を付けてくれた。ちょっとワイルドな風貌ではあるけれど、お味はやっぱり巨峰。
 今や老木となった葡萄の樹。それでも長くのばす細い蔓の先は、いつも何か頼りに出来るものはないかと宙を探っている。そして、風に揺れた時に、かすめて触れたかすかな感覚をたよりに伸びるべき向きを定めてゆく。
 葡萄の巻きひげは、コイル状となって一度つかんだ枝は放さない。時には、何もつかむことが出来なくて、ただ宙で螺旋を絡ませて拳を握ることもある。
 強い日差しを受ける大きな葉。その影が地面に描く形もまた力強い。
2009年8月28日 11:13 |コメント2
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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コメント

はじめてお邪魔します。杉本家さんのブログ、楽しみにしております。歌子さんと端午くんの会話!?など面白いです。お家には、いろいろな草木や生物がいるのですね。京ことばも心地良く感じます。京都は、盆地特有の気候のため、夏は暑く・冬は寒いとききますが、古いものをとても大切している街ですね。いつ訪れても、何度訪れても、新しい発見があり、飽きることがありません。秋にまた、出かけたいと思っています。8月も、今日でおしまい。夏のお疲れがでませんように、お体ご自愛ください。

今野さん。コメントの投稿、有難うございます。とっても励みになりました。
これからも、普段着の京都を皆様にご紹介できればと思っています。
どうぞ、宜しくお願いします。

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