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藤袴

藤袴
フジバカマ【キク科ヒヨドリバナ属】  秋の庭には、原種の藤袴が生えている。十数年前、ある人が洛北大原に自生していた数株を持ってきてくれた。それから、どんどん増え続けている。家の土と相性が良かったらしい。
 園芸種の藤袴と比べると、茎の色も花の色も控えめ。原種の方は、小さな花のガクのあたりにかすかな藤色を認めるにすぎない。初夏の頃の成長は著しく、花を付ける頃には1.5メートルを超える背丈となる。
 藤袴は、河川工事の影響もあってか急速に姿を消した秋の七草のひとつ。かつて、鴨川の両岸にはこうした秋草がなびいていた。古くは『日本書紀』の允恭(いんきょう)2年に「蘭(あららぎ)」として登場し、後には『万葉集』にも『古今集』『新古今集』にもおおく詠まれた草として知られている。
 ある年の夏、桂にある高校の園芸部の生徒さん達がやってきた。「挿し木にして株を増やしたい」という。桂の校庭で増えた株は、原種の藤袴を守ろうという運動に賛同している市内の家々の門口や、オフィスビルの入り口などに鉢植えとなって花を咲かすこととなった。
 藤袴は、とても良い香りのする植物で、承平年間(931~937)に成立した『和名抄』では薑蒜(きょうさん)類(スパイス)として名を挙げている。藤袴を干して刻んだものを箪笥などに入れ、まとう衣類に香を移す奥ゆかしい嗜みは身を護る意味も含んでいる。『神農本草経(しんのうほんぞうけい)』には、藤袴を干して香料とし、虫害を除き不祥を避ける草として記されている。
 花も終わり、種を飛ばした後の棒立ちになっている藤袴を刈り取るとき、辺りに心地よい甘い香りのたつことは、藤袴を身近にしたことのある人なら誰でも知っている。香りは忘れることの出来ない人の面影となって胸の奥にいつまでも漂いつづける。和歌に詠まれた思う人の影は、その香のとおり、はかなく、切なく、やわらかい。
2009年10月 9日 17:52 |コメント3
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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コメント

教えてください。  原種でなくても、芳しい香りは漂うのですか?

hananoki さん

 そうですね。園芸種のほうが香りは若干強いかも知れません。
どうぞ、鼻を近づけてみてください。実際に体験するのがいちばんです。香りの感じ方は人それぞれ。記述は難しいですから。

ありがとうございました。お花を見つけたなら、近くに寄って嗅いでみますね。

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