京都 町家の草木

吾亦紅

吾亦紅
ワレモコウ【バラ科ワレモコウ属】  ひと夏中、すっかり草に覆われてしまっていた吾亦紅。支えないと土の上に横になってしまうのに、ひょろひょろ伸びた茎には葉らしきものはほとんどなく、自己主張はへたくそ。家人に気付いてもらえない。草に埋もれたまま陽を求めてか、ひたすら伸ばして分けた枝先にそれぞれ深いワインレッドの小さな帽子をちょこんと被ってみせる。
 やっぱり控えめ。そんなところが吾亦紅。
 気の付く頃には秋風にゆれている。
 ふと目にとまった1匹の毛虫。白くて長い毛の生えた体をさざ波のように寄せて、ひと枝の草を登っている。
 庭で生まれた毛虫はどれも「ケム氏」と名付けて、格好の観察対象となる。さて、このケム氏。「このまま枝先までたどり着いたら、どうするかしら」と思う。すると、途中で葉に乗り移った。柔らかい草の葉は、1匹の重みにさえ耐えかねて、うっかりケム氏は落ちそうになるも再び体を波打たせて這いはじめる。
「いったい、何を考えているのだろう。何処に行きたいのだろう」
さっきのあの枝を上りきれば、すぐにでも美味しい花まで着けたのに、ちょっと寄り道したが故に遠まわり。花まで当分たどり着けそうになくなった。
 ケム氏は、時どき頭をもたげて辺りを見渡しながら歩んでいる。体をさざ波のように寄せて。ただ歩き続けている。
 先ほど浮かんだちっぽけな問いかけを撤回したくなった。
 ケム氏はもっと大きな何かに向かっている。
 丸い大きな地球の真ん中で。
2009年10月16日 12:00 |コメント4
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

京都 町家の草木の新着

コメント

ワレモコウ、大好きです。夕日に照らされてその光を一身に浴びたワレモコウの色は何ともいえず平安時代の香りがします。これは、単なる私の思いなのですが。古代紫のような何ともいえない神秘の色です。昨年、近くの里で根を取ってきたのが今年見事に咲きました。嬉しい!今年は地植えにしてやろうと思ってます。

やまちゃん さん
 「古代紫」そうですね。日本の色彩表現の豊富なことは素晴らしいですね。そして、なにより言葉が美しいところに、日本人の繊細な感性を感じます。自然と共に暮らしてきたんだなって、感じます。そして、やまちゃんさんも自然を身近に暮らしていらっしゃるのですね。吾亦紅がやまちゃんさんに喜びをもたらしたお知らせを聞いて私も嬉しいです。

また、お邪魔しました。真夜中で、すみません。ワレモコウ・私の好きな花の一つです。庭にあります。よく見ると、小さな花がたくさん集まっていますね。虫眼鏡で観察すると、とてもかわいらしいです。次は、どんな植物が登場するのか・・・・とても楽しみです。

彩の国hirokoさん
 次のは、本日更新されましたよー。
そう、吾亦紅は不思議な花ですね。彩の国さんも「観察」がお好きなご様子、、、。ものをよーく観るといろんなことを教わりますね。
次回もお楽しみに〜。 

コメントを投稿

コメントは、京都民報Web編集局が承認するまで表示されません。
承認作業は平日の10時から18時の営業時間帯に行います。




メールアドレスは公開されません



京都の集会・行事