昔を今に 菓子つれづれ

水無月 夏羊羹の季節到来

 今月末は大祓い。氏神さんへお参りに行って、茅の輪くぐりをいたします。家へ帰って必ず食べるのが水無月。ういろう生地に葛を混ぜて蒸し上げ、表面にたっぷりと蜜漬小豆をのせて造ります。冷たいお番茶があれば本当に幾つでも食べられます。でも京都以外では殆ど、いや全くと言って良いほど知られていません。大阪、神戸、奈良辺りでもご存知ない方が圧倒的に多いのです。私の実家では、御注文、店頭での販売よりも、お得意様、知人、親戚にお届けする数のほうが多く、水無月の製造はお商売と言うよりは、皆様と私共の半年間の健勝をお祈りする年中行事でした。

あぢさひ
あぢさひ

 さて、梅雨に入るとともに蒸し暑い夏、生地も「きんとん」や「ういろう」でさえ暑苦しくなって来まして、いよいよ寒天を使った夏羊羹の出番です。お茶席などで一番にお使い頂きたいのは粟羊羹、寒天を溶かし、砂糖を加えて煮(炊)き、餅米の一種「桜味甚粉(みじんこ)」を加えて造ります。夏羊羹は冷やしてお使い頂くので甘味は少し強目です。もっちりとした食感と適度な甘味、お茶を招く風味の良さは最高です。私自身が好きなこともありますが、お好み頂くお客様も多いので菓銘と彩りを変えて年中出させて頂いております。今は季節の「あぢさひ」を御用意しております。

 二番手は琥珀糖。寒天と砂糖だけで造ります。黒糖を入れられるお店、昔乍らに砂糖を焦がしたカラメルを入れられるお店、仕上げに大徳寺納豆を散らされるお店、いろいろですが、各々の風味と琥珀様の透明感の閑(しず)かな感じが持味です。
 三番目が道明寺羹。涼しそうな水色や青に錦玉を染めて、そこへ小豆やじゅんさいとともに、戻した道明寺を加えて、水中の景色を造ります。一番一般受けする羊羹です。「緑陰」は緑色に染めた錦玉を入れ、水面に映った木陰を表わしております。
 以上3種の羊羹をいろいろに組み合わせて自分だけの羊羹を造るのも楽しい作業です。
 寒天は言うまでもなく、海草のテングサから採りますが、これを利用したお菓子は江戸時代から在り、日持ちが良いのと、持ち運びにも便利な事から、各地で名物羊羹が多数できています。大垣の柿羊羹、村上の山ブドウ羊羹のように果実を使ったものもあります。寒天は第二次世界大戦までは日本特産でして、重要な輸出用の商品でした。ところが寒天の溶液が細菌類の培養に最適であるところから、戦略物資の指定を受け輸出禁止となりました。この為アメリカ、イギリスで海草から寒天様の物を作る研究が進み、粉末寒天が開発され、酸にも強いカラギーナンまで開発されました。戦後日本にも技術が導入され、現在生産量としては糸寒天、棒寒天を抜いて1位になっています。京都の丹波、長野県の諏訪、伊那地方が主な産地で、一部工業化されている地域(岐阜地方等)もあります。
 寒天のお菓子は煮詰め加減が大切で、いわゆる糖度が煮詰め加減によって変わってきます。煮詰め加減が足りないと、冷めた時の固まり具合が軟らか過ぎて、蜜が下りる事があります。又、煮詰めすぎますとクリクリの固まりのようになって風味が損なわれてしまいます。糖度計と云う物も有りますが、製造の現場で一々計測していたりしては、その間にもどんどん煮詰まりますし、昔乍らに杓子から垂れる溶液の糸を引く加減で判断します。各々の羊羹によって煮詰め加減は異なりますので、何度も炊いてみて、失敗を繰り返し乍ら覚えていきます。
 寒天の性質として再凝固性と云う事が有ります。一度冷まして、固まった物でも、水を加え熱を入れると再び液状に戻り、再度冷ましておきますと固まる性質の事です。この為、炊き直しということができます。褒められた事ではありませんが、煮詰め損なった時には煮直しをして下さい。今回お話した夏羊羹の他に餡(白餡、漉餡)を加えた練羊羹、大納言小豆を散らした小倉羊羹などを他の羊羹や、他の生地(村雨、かるかん等)と組み合わせることもできます。夏羊羹は材料も手に入り易い物ばかりですので、まず琥珀糖あたりからお始めになって下さい。又、酸に強いカラギーナンは商品名「アガー」(一例として「パールアガー」)として販売されています。これを使えば夏ミカン等を使った羊羹を炊けます。ご自分だけの羊羹を炊いて、冷蔵庫で保存しておけば不意のお客様にお出ししたり、ちょっと気軽なお土産にも出来ます。流す器は流し函(はこ)でなくても、タッパー等の密閉容器で十分ですので一度挑戦してみて下さい。

水無月のお菓子

2010年5月24日 15:07 |コメント0
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甘楽花子(かんらくはなご)
京菓子司の家に生まれ、2003年独立開業。兄が4代目を継ぐ実家では、主に茶道用生菓子を製造しており、生まれながらのお菓子屋と自分では思っています。趣味は多岐に渉りますが、茶道は裏千家、茶名は宗豪、準教授です。

Shop:京都市中京区烏丸丸太町下ル大倉町206オクムラビル1F TEL075・222・0080 →map

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