昔を今に 菓子つれづれ

長月 「眞野の萩原」

 一日が二百十日、八日白露、九日重陽、二十二日十五夜、何かとお菓子に縁(ゆかり)の節季の多い月です。
眞野の萩原

眞野の萩原

望月望月
 暦の新旧あれど二百十日と聞くと台風を思い浮かべます。そこから「野分」の菓銘が出ます。ういろう生地で漉餡を包み焼印で風にしなる芒(すすき)を押して造ります。白露はそのまま菓銘にいただいて、白餡の葛焼で上用粉をまぶすだけで四角に切ってお出しします。重陽は菊。型の菊をこなしで造り、ねりきり製の綿を上面に巻きつけて「着せ綿」。十五夜、名月、望月、この月はやはり月にちなんだお菓子。「望月」は、黒砂糖と寒天でつくった夏ようかんの上に、粟ようかんで月をのせました。
 茶の菓子で一番ポピュラーな「小芋」。菓銘も形も珍しくそのままです。お月様にお供えする小芋のついた里芋を写したものです。

小芋

月見草月見草
土、ヒゲは焼印でつけます。ニツキをまぶしたのもありますが、茶の席では香りの強いものは敬遠されます。生地はこなし、餡は漉餡です。ういろうの折物で「月見草」。少し早いのですが上用の肩に大きめの黄色の織部をつけ、芒の焼印を押して「武蔵野」。月につき物の兎、雁の焼印もよく使われます。
 葛の名残りで「初雁」も造ります。葛の生地の中に蜜漬けの百合根を入れて雁に見立てます。同じ銘でこなしの切り出しもあります。少し早いと上用の所で言いましたが、新芋が出るのはまだまだ先。できればこの時季のつくね芋は使いたくありません。芋各々で違うとは思いますが、概して軟らかいものが多く、扱い難いように思います。
 月の初めには早生(わせ)のものしか無理ですが、半ば頃になりますと、丹波から栗が届きます。早速むいて蜜漬して、山の幸を楽しみますが、今年はどうでしょう。夏の間の異常な高温、質や量にどんな影響が出るか、彼岸までと言われる季(とき)のうつろひの確かさまでもゆるぐのではないかと案じています。汗をかき乍ら栗きんとんを食べるなんて凡(およ)そ絵になりませんよね。

初雁

桔梗桔梗
 秋小口、桔梗の花も爽やかさを感じさせてくれます。「桔梗」は、ういろうや餅で造り、栗羊羹で花芯をつけます。
 萩の花、マメ科の花で赤紫や白の可憐な花を咲かせます。花そのものを写したもの、叢生を写したもの。桔梗同様ういろう、餅で造ります。野原、萩、露、三大噺ではありませんが、秋の歌にはよく出てきます。例えば、  
置く露もしづ心なく秋風にみだれて咲ける眞野の萩原  祐子内親王家紀伊
 この歌から三つ菓銘をいただきます。
 「萩の露」きんとん、「眞野の原」はういろう、「小萩餅」は餅で造ります。
 ようやく使う生地の種類も増してきます。順調に秋風が吹いてくれますように。

長月のお菓子

2010年9月 2日 11:06 |コメント0
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甘楽花子(かんらくはなご)
京菓子司の家に生まれ、2003年独立開業。兄が4代目を継ぐ実家では、主に茶道用生菓子を製造しており、生まれながらのお菓子屋と自分では思っています。趣味は多岐に渉りますが、茶道は裏千家、茶名は宗豪、準教授です。

Shop:京都市中京区烏丸丸太町下ル大倉町206オクムラビル1F TEL075・222・0080 →map

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