師走の声を聞くだけでも気忙しい思いになるものですが、十三日の事始めを迎えますと愈々(いよいよ)本格的に年越、迎春の準備が始まります。私どもお菓子屋ではこの日、新年の干支に因んだ干支菓、歌会始のお題をテーマにした御題菓を店頭に展示し、お得意先様に見本をお見せしてご注文を頂きに参ります。
まず干支菓から。来年ですと「兎」。見た目にやさしく、可愛い動物で、形もすっきりしているので造りやすく、長い耳を強調したり、ふっくらと丸みのある姿を生かしてきんとんに造ったり、伝統工芸の意匠から波兎を焼印にしたりします。とにかく分かりやすいのが一番、年始のことですのでおめでたく、ほのぼのとした印象を与える意匠が肝心です。ちなみにきんとんはねりきりの「雪兎」です。
店頭に並ぶ前に何度も試作が繰り返され、製造に携わる工場のメンバー各々が自分なりの作品も出し合っては研究を重ね、最終的に一つの決定作品に絞り込まれます。その折に自分の意匠が採り上げられなくても、先輩、同僚、主人の意匠を画帖と製造控に記録しておきます。長年の積み重ねが知らず知らずの間に創作菓子製造の潜在力として蓄えられていきます。
干支のお菓子、御題菓子のお披露目が終了すると、愈々年末年始用の原材料の仕入れ、各種餡の炊き溜め、葩(はなびら)餅用ごぼうの蜜漬け、新年用松竹梅羊羹の炊き上げ等の作業に忙殺されます。倉庫に山積みされた小豆や砂糖が面白いように減り、餡棚が餡函で一杯になります。そんな中、師走の生菓子も造られます。
雪がテーマのものが多くなり、そば上用に白い景色を付けて「初雪」、餡色のきんとんにねりきりをのせて「柴の雪」、月初めの頃ですと「名残の錦」、月末には「埋み火」等が出ます。「冬の花」は、ほんのり色をつけた白餡をういろう生地で包み、氷餅を散らしました。