今月のお話は、料理とお菓子。違う世界の事のように思われますが、実際の作業の面でも、季節を生かした献立の組み立て方や菓銘の付け方等似通った点も多々あります。
フランス料理に代表される西洋料理では、コースの最後に必ずお菓子が出ますし、日本でもお茶事の折には、懐石料理が終わった時点で、その日の主菓子が供されます。最近ではごく一般的な会席料理のお店や板前割烹のお店でお手製のお菓子を出される事も多く、中には別に店を構えてそんなお料理屋さんのお菓子を販売されているお店もあります。
小豆を煮て、漉して、煮立てた砂糖蜜の中へ入れて煮詰める。餅粉を熱湯で練り、上白糖を加え練り上げる。蒸して裏漉したつくね芋を白餡と砂糖を加えて練り上げる。すり下ろしたつくね芋に砂糖を加えて米粉を加えこね上げた生地で餡を包んで蒸す。ゴボウのアクを取り、軟らかく煮て蜜漬けする。お菓子屋の仕事、料理と共通する仕事、応用のきく仕事が多いと思われませんか。双方が重なり合う共通集合の部分がかなりあります。
現に私どものお菓子塾に今まで調理師さん5人がお稽古に来られました。流石(さすが)に皆さん手際も良く、仕事の要点を捉えられるのが的確で早かったです。つくね芋の皮むきはもう私など足元にも及ばないくらい、早くきれいにされ、恥ずかしい思いをしました。
逆もまた真なりで、お料理の好きな、お上手なお菓子屋さんもたくさん居られます。大抵の方はお正月のブドウ豆など上手に煮(た)かれますし、例えば奥さんがお留守とか風邪引の時なんかに代わりに台所に立たれるという方も結構多くあります。
私の祖父は、暇な折には懐石料理、フランス料理、洋菓子まで造って呉れましたので、私が最初に飲んだスープはヴィシソワーズ、洋菓子はシュークリーム、どちらも本当のお手製でした。
常日頃から幅広く技術的な面での見聞を重ねておくことで新製品が生まれたり、それまですごく手間のかかっていた作業が他業種の技術や道具を応用することで簡略化される事も可能です。
一例を挙げますと羊羹の「水藻の花」。ルバーブの入った錦玉羹です。
ルバーブとは、和名ダイオウ。シベリア原産の蕗様の植物で、整腸作用がある事から、ヨーロッパ北部では庭で栽培して、ジャムにして食べ、日本では漢方薬に用いられるだけでなく、主な産地である新潟、長野の高原地帯では、ジャム等にしてお土産に売られています。
とても爽やかな酸味と香りが特徴で、知り合いのコックさんから「洋菓子ではタルトに入れてる。ジャムにしてパンに付けても美味いで」と一束頂いたのがきっかけで、祖父がイチゴのジャムを造るのを見ていましたので、ひとつ挑戦とルバーブジャムを造り錦玉糖に混ぜてみました。ツルンとした口触りで、爽やかな風味が楽しめます。他にされるお店がないのか、横浜から年に数回ですが、こちらへ来られる折に「水藻の花」目当てにお立ちより下さるお客様も居られます。ジャムの造り方に少し工夫が要りますが、後は簡単ですので、ご自宅で造ってみられては如何でしょうか。
また、和食ですと、季節の素材、それに合った調理法、器の選び方。生地、塗物、蒔絵、陶器、磁器、色絵、焼〆、ガラス、形も様々、皿、椀、小鉢、多種多様な中から一つの料理に合う器を選択する事、拝見していて、とても参考になります。和洋中を問わずこれからも美味しい勉強を続けたいものです。
菓子屋の料理自慢
事の序(ついで)に私の得意な料理を自慢させてもらいましょう。今まで他人様にも評判の良かった順に。
1位 ロールキャベツ
煮込みのスープは鳥のガラ一羽分で摂りました。
2位 ギンナンのすり流し
野点の折、お弁当に添えて出しました。
3位 シャリアピン・ステーキ
敬愛する故村上信夫・ムッシュのレシピ通り造りました。人参のグラッセも付け合わせました。
蛸焼も、園遊会で一人二個宛で三百人前を二人で焼きました。クルッと返す技はプロ並みです。