お菓子で巡る趣味の周辺

〈9〉落語とお菓子は似たもの同士

 歩く国宝、桂米朝師匠が曽(かつ)て言われました─「落語は伝統文化の掃き溜めや」。
 謙遜して言われた表現ですが、この掃き溜め、言い換えて集大成、分かり易く言えば「ええとこ取り」という事です。能狂言、文楽、歌舞伎、それに伴う音楽、鼓、大鼓、太鼓、笛、三味線、浄瑠璃一式、長唄、一中節、小唄、地唄、踊りから舞、諸芸と言われる全てが取り込まれています。
 例えば「七段目」は忠臣蔵、「猫の忠信」は義経千本桜、「胴乱の幸助」は桂川連理柵が取り入れられ、咄(はなし)の主要な部分を占めています。義太夫を語り、人形振りを真似、もちろん見得も切るのも当然の事。入門当所からお囃子を担当することで篠笛、三味線、太鼓、銅鑼(どら)、鉦(かね)、鳴り物一通りのお稽古をされ、更に各人好みによって謡、狂言、義太夫、踊の方へも進まれるそうです。こんな積み重ねで面白い芝居噺が出来上がるのです。他にも「茶の湯」「はてなの茶碗」のように茶道にゆかりの咄もありますので、お茶やお道具の事も一通りは知っておかないと、と言う事です。
 私どもが常に言われております、「何でも浅うてええさかい、幅広う知っときや」と全く同じ心構えが要求される世界です。
 似た者同士と言えば、どの師匠にも教えを請えるという点も似ています。上方で言えば、私の知り合いの落語家さんは人間国宝の一門ですが、もともとは米団治作の「代書」を当代の春団治師匠に一席丸ごと演じてもらわれたそうですし、文枝一門の方が「らくだ」を松鶴師匠に習いに行かれたこともあるそうです。私どもでもお出入り以外のお家元のお好み菓子のご注文を頂きますと、そちらお出入りの先輩にお尋ねし、ご指導頂いたこともありました。

 落語をお菓子に、単品では無理でしょうが、展示会の時等に見られる組物で、時候に合わせた噺を取り上げてみるのも面白いかと思います。

 今月はお菓子のお話から少し離れたかと…、でも、掃き溜めにゴミ(五味)はつきもの、甘味も入っております。

そば上用で漉し餡を包んだ「初雪」

 お菓子が登場する落語といえば「饅頭こわい」でしょうか。「じゅげむ」や「目黒のさんま」と並ぶ有名演目ですから、落語通でなくてもご存知の方は多いでしょう。
 「怖いもの」を披露し合う若者らのなかで、1人だけ「怖いものなどない」と豪語していた男が、唯一怖いと白状したのは饅頭。そんな男が気に食わぬと、友人らは金を出し合って饅頭を買い求め、男を饅頭責めにします。男は怖い怖いと言いながら饅頭を平らげ、存分に甘味を満喫した後は「今度は渋~いお茶が怖い」…饅頭好きな男のはかりごとであったというオチ。
 江戸時代に伝わった中国の笑話が原話とされ、落語として広く知られるようになったのは明治末期。以来、多くの噺家たちによって演じられてきた、人気の演目です。
 中国の原話では肉の餡をつめた饅頭(マントウ)だったのでしょうが、日本人にとって饅頭(まんじゅう)といえば甘いもの。話中には、田舎饅頭、蕎麦饅頭、栗饅頭など、友人らが用意したさまざまな饅頭が登場します。怖い怖いと言い乍(なが)ら「おれは粒餡よりはこし餡の方が…」などと呟きつつ次々饅頭を頬張る男の姿は、甘味好きの方には共感される描写ではないでしょうか。当時の庶民に甘いもの、とりわけ饅頭がいかに愛されていたかがうかがえる噺です。

2011年9月 1日 17:01
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甘楽花子(かんらくはなご)
京菓子司の家に生まれ、2003年独立開業。兄が4代目を継ぐ実家では、主に茶道用生菓子を製造しており、生まれながらのお菓子屋と自分では思っています。趣味は多岐に渉りますが、茶道は裏千家、茶名は宗豪、準教授です。

Shop:京都市中京区烏丸丸太町下ル大倉町206オクムラビル1F TEL075・222・0080 →map

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