お菓子で巡る趣味の周辺

〈11〉山粧う秋のお菓子

 いよいよ紅葉の季節、早ければ月半ば、遅くも月末には北、東、西、京を取り巻く山々が全山、あるいはまだらに、また段々にと染め上げられ、艶やかに妍(けん)を競います。紅葉狩、北山、三尾、通天橋等へ、家族で、友人と、また町内会等でにぎやかに出掛けます。
 秋のお菓子のテーマでたぶん一番多く採り上げられるのが、“紅葉”です。

紅葉きんとん

 いつの間に紅葉しぬらむ山ざくら 昨日か花の散るを惜しみし
─中務卿具平親王(なかつかさきょう・ともひら)

 桜、蔦、櫨等、紅葉に衣替えするもの、銀杏の如く黄葉するもの、常盤木の緑、霜、雪の白、いろいろに綴れ合って錦のようです。菓銘で申しますと、「初紅葉」、「薄紅葉」、「梢の錦」、「木の間の錦」、「紅葉山」、「立田姫」、「残りの錦」、「杣路の朝」。おおむね派手やかな彩の多い、このようなお菓子を盛るには、どんな器が良いでしょうか。
 銘々皿、銘木の片木(へぎ)、漆器、陶器、磁器の喰籠(じきろう)や鉢、夏ですとガラスやクリスタル、銀器等、器の材質、形、色は多岐にわたります。そんな中からお客様が選ばれる器に会う彩形を創るのが私どもの仕事です。その為にもお菓子器に使われる材質(主に陶磁器)のあらましは心得ていなければなりません。
 お菓子器を拝見してから創り始める事は少なく、ほとんどは口頭で「染付の甲鉢」とか「魁手の赤絵鉢」「義山(ギヤマン)」等とお聞きして、見本が出来た段階でお菓子器と合わせて頂きます。

その1 神楽岡文山の赤楽、差し渡し30センチ程の楓形大皿

 神楽岡とは吉田山の事、文山は文化・文政頃に岡崎で窯を焼いていた陶工で、楽焼を得意としていました。丁度同じ吉田山、真如堂でのお茶会に使われました。十一月初めでしたので、お取り合わせは“紅葉”。器も楓そのもの、替の茶碗や待合の床にも“紅葉”がありますので、お菓子は“紅葉”を避け、「奥山」に決めました。猿丸太夫の「奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の声聞く時ぞ秋はかなしき」に取材した、生地に餡を入れ、粒餡を包んだ餅菓子で、俵型の上面に一筋焼印を入れて鹿の背に見立てています。少し地味目の赤楽にのせて見ますと、薄茶色俵型、上面の焼印もスッキリとして紅葉尽しのなかで、ホッと一息つけるお菓子になりました。
 この場合、お菓子器の作り手が珍しくお席のお道具の中で御馳走になっていましたので、紅葉を避ける他にも、お菓子は控え目に致しましたが、別の折でしたら、こなしで紅葉色と黄色の山道にして、中に栗餡を入れて「山路の秋」。華やかなお菓子にしてもよろしいでしょう。

その2 魁手赤絵鉢 お菓子器表面の底部に「魁」の文字のある赤絵鉢

 この時は十一月末のお席でした。赤絵と云うものは暖か味を感じさせる色合いをしています。本席のお軸が「開門多落葉」、茶杓が「雪化粧」─粉雪の事─と、秋と云うよりもう初冬のお取り合わせなのですが、未だ山には紅葉の色が燃えているので「残りの錦」の菓銘できんとんにしました。地の色を漉し餡、白餡を混ぜた茶色にし、そこへ紅葉色と黄色を散らしました。梢の錦ではなく、地面に散り敷いた紅葉です。赤絵の地の白の上に茶色、落ち着いた上に派手な色が少し散り敷いて、名残の華やかさを演出しています。
 近年、焼物の組合、京菓子の組合、各々の青年部が協力し合って、お菓子器としてだけでなく造られた焼物にお菓子を盛ってみる、また、お菓子の彩、形をより生かす、逆にお菓子を摂り込む器を競作する試みも行われています。
 また、昔から純然たる趣味の領域で焼物を造る方、美術品として楽しまれる方も、たくさん居られます。仲間内とか組合の展示会の折に御自慢の品に自作のお菓子を盛られる事もあり、「お菓子よりお皿よう見といてや」等と冗談めかして言われる方も。そんな先輩方を見ていますと、お菓子を造る仕事を楽しんでおられるように思え、こちらまで幸せな気持ちになります。

2011年10月24日 13:14
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甘楽花子(かんらくはなご)
京菓子司の家に生まれ、2003年独立開業。兄が4代目を継ぐ実家では、主に茶道用生菓子を製造しており、生まれながらのお菓子屋と自分では思っています。趣味は多岐に渉りますが、茶道は裏千家、茶名は宗豪、準教授です。

Shop:京都市中京区烏丸丸太町下ル大倉町206オクムラビル1F TEL075・222・0080 →map

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