干支にちなんだ薯蕷。京菓子ではそのものの姿を写すのは余り好まれず、想像させる形が喜ばれます。今回はホルスタインの柄を白い生地にぼかして入れてみました。薯蕷に使うつくね芋は丹波地方の特産品で今が旬です。非常に粘り気が強く、肌理細やかな肉質のイモで、食べた後につくね芋の柔らかい香りが立ちます。
幾千歳 経来て今君 生(あ)れましぬ
伝え重ねよ 代々(よよ)の栄を
今年の歌会初めの御題は「生きる」。難しいテーマで悩みましたが、生まれ出ずる命を大切にし、無事に代をつないで行って欲しいという願いを込め「おくるみ」にしてみました。
生まれたての可愛い赤ちゃんはだれもがいとおしく抱き上げます。赤と黄色のこなし生地で中は白餡です。各和菓子店の個性、特色が出る菓子だけに、腕の見せ所です。
えくぼ、お店によっては笑顔とも言います。真っ白な薯蕷生地の真ん中の赤い点(こなし生地)がかわいく微笑んでいるように見えます。お茶の世界だけでなく、一般の御家庭でもお正月や慶事の折によく使われます。お干菓子の松葉と半生菓子の押し物のえくぼか、薯蕷のえくぼをセットで用意されます。
なぜか水仙の群生地は海岸べりの丘の上という場所が多いようです。一面の雪の中に黄色の花が生の息吹を感じさせます。
寒い折ですので、芯の餡には黄身餡のほっくりとした風味を、そぼろはねりきりを毛通しで細く出して雪に見立て、水仙の花は黄色に染めた白餡を荒目のそぼろにして表しています。
立春を間近控える頃になりますと、百花の魁(さきがけ)で雪中に香っていた花にも鳥が身を添わせて来て春を告げるかのようにチッチッと鳴きます。梅に鶯と言われる様な見事な啼き方には少し時と暖かさが必要な様です。
二重に貼り合わせたこなしを正方形に切って半折りにしただけですが、鶯に見ていただけるでしょうか。
鶯の谷より出づる声なくは 春来ることを誰か知らまし 大江千里(古今集)