京都民報
なるほど京都

京の菓子暦

茶の湯と京文化に磨かれ、育まれた京の和菓子。四季折々の京の和菓子を紹介します。

甘楽花子 坤庵

2月

春日野(かすがの)【こなし、こし餡】

お菓子 節分を過ぎ、立春を過ぎても、なほ冷たい風の吹き、白いものが舞ふ日もありますが、春はたしかに息吹いています。
 色、形が自在にできるこなし生地で春日野を表してみました。
 生地を伸して、細長く切り、二段に巻いて下萌えの草と雪に見立てております。

春日野の下萌えわたる草のうへに つれなく見ゆる春のあわ雪  権中納言国信

栗羊羹 「梅雪羹」(ばいせつかん)【味甚粉、大納言小豆】

お菓子 立春を過ぎてもまだまだ寒さがこたえる2月。如月は、寒さで着物を重ねて着ることから「着更着」となったとか。
 梅花が開いた上に雪が積もった風情を表してみました。小豆はつぼみに見立てています。
 粟羊羹は味甚(みじん)羹の一種で、桜味甚粉を使ってつくります。もっちり、粒々した食感が粟に似ているので、本来は黄色に着色して使います。夏には冷やして召し上がっても美味しいです。お茶席用の羊羹として発達し、意匠の工夫が見られるお菓子です。

雪ふれば木ごとに花ぞさきにける いづれを梅とわきてをらまし  紀友則(古今和歌集)

春鶯(しゅんおう)【こなし、漉し餡】

お菓子 奈良時代は、花といえば梅。万葉人も鶯を引き付けようと庭に梅を植えたのでしょうか。北野天満宮、京都御苑の梅園もほころび始めました。鶯の声も聞こえてくるでしょうか。
 こなしは京菓子の3名物「薯蕷・きんとん・こなし」のひとつ。白餡に小麦粉を混ぜ込み、蒸して使います。色付けのし易さ、成形が自由なことなどから江戸末期から茶道で重宝される素材として幅広く応用され、数多くの銘品を生んで来ました。

はるのぬに なくやうぐひす なつけむと わがへのそのに うめがはなさく  (万葉集)

早蕨(さわらび)【わらび粉、漉し餡】

この春は誰にか見せむ 亡き人の形見に摘める 嶺の早蕨  (源氏物語48帖)

お菓子 宇治の山荘に春が来て、山の阿闇梨から届けられた蕨の御礼にと中の君が送った返歌。
 京の和菓子屋でわらび粉を使うのは、桃の節句の前、2月末から3月初旬だけというのが昔ながらの決まり事となっております。少しでも季節を先取りし、来たる実りを祈る農耕の民の習わしでしょうか。火を通すと琥珀色になるわらび粉ののど越しと春の香りが楽しんでいただけます。