こなしを伸して葉の形につくったもので餡を包み込みました。いかにも新緑のみずみずしい季節を思わせるお菓子です。
若葉かおるこの時期、山や林で葉っぱが丸まった「落し文」を見かけます。オトシブミという昆虫がつくった揺籃(ようらん)です。葉の中には虫の卵が産み付けられています。形が巻紙を巻いた文(手紙)に似ているというので、「落し文」と呼ばれます。
その姿からついた菓銘といわれますが、時鳥がくわえて飛びながら落としたと考えて落し文とする説もあります。
寒天を煮溶かし、砂糖を加え、煮詰めたものを錦玉(きんぎょく)と呼びます。この錦玉をさいの目に刻んで、きんとんのそぼろに代えて三彩の餡玉につけたものです。
鮮やかな餡の色彩に、錦玉によって陰影が加わり、紫陽花独特の四角い花弁の表情が表現されます。
錦玉にカラメル、黒糖などを加えて茶色に色付けすると琥珀糖(こはくとう)と呼ばれます。錦玉も琥珀も、キラキラした光の様子が水辺の涼しさを思わせ、夏の涼菓に好んで使用されます。
平安時代、貴族が外出の際に利用した牛車(ぎっしゃ)の車輪は木製で、乾燥で割れるのを防ぐため保管時には車から外し鴨川などに漬けていたといわれます。その車輪が川の水に洗われる景物を「片輪車」といい、衣装や工芸品の図柄によく使われてきました。
お菓子でその涼しげな情景を表現してみました。錦玉に蓮根をすりおろし、上に蜜漬けの薄切りをのせて、片輪車に見立てています。
仏事に使う時には「蓮根羹(はすねかん)」と菓銘が変わります。