三世井上八千代振付けの地唄舞、「深き心」は、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」の七段目、一力茶屋の場が取り入れられた振になっています。世間の目を欺くため茶屋で遊興したという大石良雄(内蔵助は通称)を偲んで舞われます。忠臣蔵にちなんでそば上用で漉し餡を包み、頂に大徳寺納豆をつけます。
そば粉が入っているため、普通の上用よりはさっくりとした歯ごたえとそばの香り、そこに大徳寺納豆のしぶい塩辛さが、四十七士を率いた大石の心を表しています。
十一月末から始まった千枚漬の漬け込みは今月が本番。千枚漬の原料は京は岡崎の聖護院蕪。上用で形をつくり、こなしで軸(葉の切り口)をつけます。上用の一方をちょっと尖らせて、蕪のしっぽの感じを出します。京菓子には珍しい、物の形そのものを取り入れたお菓子です。
上用の皮はやや厚めにつくってありますので、口に入れると上用のふっくらもっちりした食感とつくね芋の香りが口中に広がります。
千枚漬のニュースに、慌しい年の瀬が近づいたことを感じるのも京ならでは。このお菓子は年内いっぱいはつくります。
そば上用で漉し餡をくるみ、普通の上用を頂にさっとつけました。そば上用を土、普通の上用を雪に見立てています。うっすらと雪化粧した初冬の風景を感じていただけたら。
初雪や 水仙の葉の たわむ程
という句を思い出します。
十一月の初めにはもう新そば粉も出ますので、材料の面から言いましても小豆、つくね芋、そば粉、上用粉と新物ばかり使えるのもこの月の楽しみです。
一年間お付き合いくださいまして、ありがとうございました。昔ながらの原料、製法を手の及ぶ限りは守ってゆきたいと思っております。