京ことばとして使用されていたといっていい懐かしいことばに、「カニココ」がある。「カニココ」の意味は、(A)赤子の胎便とか臨終での排便の意と、(B)大いに弱っているとか、わずかほんの少しという意から、(C)やっととか、かろうじての意に転じたと思われる。
文献としては、天保3年(1832)に「大きによわっている、かにここ」とあって、その後は昭和7年(1932)の滋賀方言集に、(A)の意の「カニココ」と並べて「カニココ、どうなりこうなり」と記されている。筆者の山本小太郎氏は医者であるため、(A)と(C)の意を記されたものであろう。雑俳では、「かにばばに 日も銭筥(はこ)の上」文化4年(1807)とみられる程度である。このやっととか、かろうじてという意では、上京区の西陣や北区の大宮あたりの高年層でしか用いられないものとなっている。いろいろなゆがみがみられる現今の時勢、「カニココニ」であってもいい、新しく素直な世の中に変えていきたいものと思う。