さて、ここで京ことばとしての「イッチ」(一番)代表的な「オーキニ」に登場してもらおう。「オーキニ」は語法的には副詞であって、「オーキニ、ありがとサンドス」とか「オーキニ、はばかりサンドシタ」といったように日ごろ用いる。この「オーキニ」は、大きにであってあくまでもたいへんという意をもつ副詞であることが、天明7年(1787)に記された「大きに御無沙汰とは当時花詞(はやりことば)」と『譬喩尽』にみられることからもわかる。それが、下に続くありがとうとか、はばかるという語を下略したものになったのである。ここらが、京ことばの婉曲表現につながるものであろうか。
雑俳資料をみてみても、なかなかでてこなかったが、やっと明治43年(1910)になって、「つり銭かへし まいど 毎度大(おほ)きにありがとう」という句がみられることになる。現代の京ことば「オーキニ」は、明治以降になってありがとうという意をこめることになったのではないか。