「セワシナイ」は忙しいの意味であって、「~ナイ」には何の意もない。これは、単なる接尾語であって、語調をととのえるだけである。このような類の形容詞は、京ことばには多くあって、「アラケナイ」(粗気ない)、「キヅツナイ」(気術ない)などがある。どうも近世以降になってできた語らしい。
雑俳によると、「せわしなや せせせせ蝉のせせせせせ」元禄十五年(1702)、「せわしない
出立の飯を水につけ」天明二年(1783)、「世話しない
下戸の隣へすわったら」明治十六年(1883)などとでてくる。江戸中期の狂言本にも「さてさてせわしない。追付参るとおしゃれ」とある。「~ナイ」の語形をとって、打消しや否定の意味をもたないところに特色があるのだが、「セワシナイコッチャナー」とはたえず現用することばである。ほとんど同義語で「セツロシナイ」ともいう。