伏見人形を代表する人形です。
百人一首の書かれた扇面や色紙の散らされた着物を着た子供で、二つに割った饅頭を両手に持っています。
一見すると、今まさに饅頭を食べようとしている食いしん坊の子供にしか見えませんが、実はとても聡明な子供なのです。
ある人がこの子に「お父さんとお母さんとどちらがよいか」と尋ねたところ、この子供は手に持っていた饅頭を二つに割って、「おじさんは、これ(饅頭)どちらがおいしいと思う?」と反問したといいます。
このように賢い子供の象徴として人気となり、この説話にあやかろうと伏見稲荷の参詣土産として求められたのです。
文政2(1819)年に出版された合川珉和(あいかわみんわ)の『通神画譜』に、この人形の図が載っていることから、この時期にはすでに伏見人形の教訓物の代表格となっていました。人気商品だったため、40センチほどの大きなものから5センチばかりの小さく安価な一文人形まで多種類作られています。また大阪や名古屋など全国各地で模倣品も作られていました。饅頭も地方色豊かでカステラのようなものを持っているものもあります。
この人形を部屋に飾ると賢くなると信じられ、また賢い子供が産まれるように願を掛けることもありました。
この饅頭喰い人形がたくさん奉納されているお寺があります。京都市上京区の北野天満宮境内の東向観音寺で、子供のない婦人がこの人形を一体借用して帰り、子供を授かることが出来たら御礼に一体を加え、合計二体にして奉納するというものです。現在では子授けの祈願の際に、饅頭喰い人形に限らずキューピーちゃんなど他の子供姿の人形が納められることもある。
京菓子司・俵屋吉富の京菓子資料館ではマスコットとして採用されたり、京都を舞台にした菓子職人のお話であるNHK朝の連続テレビ小説「あすか」でも、おばあちゃんの枕元にいつも飾ってあったりと現在でも造形のおもしろさから人気があります。
しかし気になるのは人形の名前、「饅頭喰い」ではやっぱり食いしん坊を想像してしまいます。だからといって「饅頭割り」では親しみが持てません。賢そうなイメージは湧かなくても「饅頭喰い」が一番しっくりくるようです。