獅子舞(ししまい)は獅子頭をかぶって行う民俗芸能で、二人立ちの伎楽(ぎがく)系と一人立ちの風流系の二系統に分けることが出来ます。一般に獅子舞というと前者の伎楽系が有名で、二人またはそれ以上の人が獅子頭についている幕の中に入って舞い、獅子に噛(か)まれると疫病退治や悪魔払いの御利益があるとされています。
現存最古の獅子は正倉院の宝物の中にあります。天平勝宝四(七五二)年の銘があり、東大寺の大仏開眼供養の伎楽の折りに、音楽に合わせて練り歩いていたものだと考えられます。この頃には「師子」という字が使われていました。仏教文化とともに日本に移入されたのでしょう。
今回紹介するのは、一人立ちの獅子舞の姿をしている加茂人形です。江戸時代中期から後期頃の作品だと推定され、獅子頭をかぶり、腹のあたりにくるように肩から提(さ)げられた鞨鼓(かっこ)を打ちながら舞っている姿をしています。西日本一帯に広く分布する風流系の太鼓踊りが起源とされ、中心にいる数人が頭上のかぶり物を獅子頭に替えたのが始まりであろうという説もあります。また獅子頭は通常、桐で作られており、獅子以外にも竜頭や鹿頭のものも存在します。
今ではほとんど見られなくなった一人立ちの獅子舞ですが、京都では伊勢の太神楽(だいかぐら)とも呼ばれ、小正月前後に門付け芸として各家を訪問していました。太神楽の発祥の地として伊勢神宮と熱田神宮の二つの説がありますが、京都へは伊勢からよくきました。元々は神様への奉納、氏子への祈祷等が主な内容だったのでしょうが、江戸時代より各地へ赴くようになりました。その際に獅子が各家々のおくどさんや屋敷を祓(はら)い、獅子に頭を噛んでもらうと無病息災になるという信仰がうまれます。また招福だけではなく娯楽も提供する芸能として京都でも喜ばれたことでしょう。
この人形をよく見ますと舞っている男性は福与かに笑っています。また頭上の獅子までなんとなく笑っているような剽軽(ひょうけい)な顔をしています。獅子舞の特徴をよくとらえており、こちらまで思わず微笑んでしまいます。この賀茂人形の獅子舞も、前回紹介しました猿回しと同様に飾っているだけで幸せな気持ちにさせてくれます。