公家社会は位階や年齢によって着用する装束などが詳細に規定されています。その公家の姿を正しく考証して作られた雛を有職故実(ゆうそくこじつ)に則っているという意味から有職雛(ゆうそくびな)と呼びます。有職雛は、男雛の装束の種類によって、束帯雛(そくたいびな)、直衣雛(のうしびな)、小直衣雛(このうしびな)、狩衣雛(かりぎぬびな)などと呼び分けられます。今回ご紹介する雛は、直衣姿をしていますので、直衣雛となります。
直衣とは上級貴族の日常着で、冬は白、夏は二藍色の袍(ほう)を着、指貫袴(さしぬきばかま)をはきます。普通は勺(しゃく)を持ち、烏帽子をかぶります。しかしこの装束は誰でも着られるものではなく、天皇の勅許(ちょっきょ)がなければ着ることができません。また天皇のよほど信任の篤い人や身分の高い人に限り宣旨(せんじ)を賜って冠をかぶって宮中の出仕に着ることが出来ます。ですからこの雛は直衣に冠をかぶっていることから特別な雛だといえます。
この直衣雛は、天保7(1836)年に光格天皇〔明和8年(1771)年~天保11(1840)年〕より、内親王である宝鏡寺門跡第二十四世三麼地院宮(さんまじいんのみや)霊厳理欽(れいごんりきん)尼が12歳の時に拝領されたものです。
男雛は、冠をかぶり、紅の単の上に白い袍を着て指貫袴をはき、手には勺をもっています。女雛は、白い小袖に緋の袴をはき、上に袿(うちぎ)を羽織り、手には檜扇を持っています。これを袿袴装束(けいこしょうぞく)といい、男雛と同じく宮中に参内するときの服飾となります。髪はおすべらかし、置眉や鉄漿(おはぐろ)などお化粧に至るまで正確に考証されています。
三麼地院宮は、この雛の他にも光格天皇より拝領の雛を二組所持されています。天保3(1832)年に狩衣雛、天保4(1833)年に女雛が濃紫袴(こきはかま)をはいた雛とセットになっている直衣雛を拝領しています。これら三組を毎年恒例の「宝鏡寺春の人形展」にて一組ずつ展示しています。 2007年春の人形展(3月1日~4月3日)では、昭和32(1952)年より続けられてきた人形展の100回目を記念いたしまして、三組の内、直衣雛と狩衣雛の二組が飾られます。