羽子板や去年多かりしあたり役 秋桜子
新年明けましておめでとうございます。本年もよろしく御贔屓のほどを。
さて、役者も人間であるから、舞台でうっかり失敗することもある。そういう時はたとえどんなことが起ころうとも、その役になりきっていたら慌てることはない、という教えがある。そのお手本は二代目鴈治郎で、台詞が多少違っていても、実にうまく繋げてみせた。まさに名人芸だった。
寺子屋で松王丸の首実検に首が入っていないということがあった。そのとき松王丸は少しも騒がず「源蔵、改めて首を受け取ろう」と言ったという。とっさにそういう台詞が出てくるかどうか、心構えの問題もあるかもしれない。
二代目松緑は玄蕃役で出たところ、スリッパを履いていた。慌てて脱ぎ捨てたが、こういうのはご愛嬌に入る。
桜姫役の玉三郎は、押し入れの戸が閉まらなくなったとき「この家は建て付けが悪いねぇ」と言った。機転の利く役者である。
娘道成寺では引き抜きが見所だが、時として上手くいかない事もある。後見は万一に備えて、鋏を懐中しているという。「結び目が固くて紐を切ったら、旦那に大目玉を喰らいましてね」というのは尾上梅之助の話。衣裳を大切にする梅幸らしいが、こういう機知がなかったら舞台は穴があいていただろう。
きっかけを外したり、台詞を忘れたりすると、張本人は同じ舞台に出ている役者達に蕎麦を奢ることになっている。十七世羽左衛門追善で「女暫」を出した萬次郎が、大事なところで絶句した。暫は一幕ながら登場人物は五十人を超える。さぞ懐が痛かったに違いない。但し、今はとちり蕎麦ならぬコーヒー券になったというから、時代を感じさせる。
コメント
春香さん
あけましておめでとうさんどす。
『とちり蕎麦』とは面白いですね。
鈍くさい不器用な役者さんもいらっしゃるのでしょうか?楽しませて、機転を利かせながらも、本当は大汗をかくのでしょうね。
ふむふむ、面白いお話しを知りました。ありがとうございます。
当方は不器用な大根役者タイプです。
華がないなあとがっくりしつつ、不器用でも、大成された役者さんのお話もいずれ書いてください。楽しみにしております~。
投稿者: 風の子 | 2008年1月 7日 20:23
お春さん
はじめまして。
素晴らしいお話をありがとうございました。とても面白かったです♪
役者さんて、頭が良くなくちゃダメなんですね。
とちり蕎麦の代わりにコーヒー券ですか?ビール券ってのはないのでしょうか?ウフフ。
又、愉快なお話を楽しみにしています♪
投稿者: オンミ | 2008年1月 8日 16:36