ナンバ歩きの効用

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廓文章 古武術を研究している甲野善紀氏は、オリンピックのアスリートたちも一目置く存在である。彼が提唱しているのは「ナンバ」という歩き方だった。この動きを取り入れると、スタミナが切れず、しかも疲れないという。
 これは、現代の歩行とは逆に、手と足を同じ方向に動かせるのが特徴である。右手が前に出るときは右足も前に出す、左手が前に出るときは、一緒に左足も前に出す歩き方なのである。
 たとえばよく知られる徳島の阿波踊りなどは、両手を上げて同方向に足を踏み出しつつ、軽快に拍子をとる。ナンバの典型といえる。
 これが日本古来の歩き方だという証拠は、着物にあるようだ。なるほどあらゆる動きに対して無駄が少なく、乱れない。今風に歩くと身体が捻じれるので、和服はたちまち着崩れてしまう。着慣れない成人式などで、誰でもこういう経験をしているはずである。
 実は歌舞伎にも、重要な演技動作にナンバが使われることをご存じだろうか。
 「時雨の炬燵」の大詰、治兵衛が小春との水盃のくだりで、「酒と水とはかわらけの」と上手から下手へ歩くところは、まさにナンバ歩きなのである。「双蝶々」の山崎与五郎の野暮ったく、もっさりした演技もこれだし、「雁のたより」の金之助、「廓文章」の伊左衛門では、随所にナンバがかりの動作が見られる。また「沼津」で十兵衛が荷物を担ぐところの面白さなどは、色気溢れるまなざしとナンバの足取り抜きでは語れないものがある。上方和事の独特な工夫は、こういう挙措からきているといってもいい。
 人物造形をより深く、より印象的にしたのが、ナンバ歩きである。
 ナンバという語源は南蛮あたりからきているらしいが、はっきりしない。乞、御教示。(挿絵・川浪進)

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08/03/04│歌舞伎のツボ│コメント2

コメント

オハルさん

ナンバ歩きは「難場」からきていると聞いた事がありますよ。

字のごとく、「難儀な場」で大きな力を発揮できるのだそう。昔はこの歩き方が普通だったそうですが、今でも疲れると、自然にこの姿になるそうです。階段を登って疲れたときなど。

陸上の末続選手がこの「ナンバ走法」を練習に取り入れていたと聞きます。

体がねじれないので、着物の着崩れが無いのでしょう。

でも、明治以来という、西洋の歩き方に慣れている私達にとって「ナンバ歩き」は難しいです。散歩に取り入れてみましたが、ウッカリするとすぐに手足が反対になってしまいます。

歌舞伎では重要な動作に「ナンバ」が使われるのですか?!現代の役者さんも、沢山この歩き方を練習しているのですね。

春香さん

わたしもナンバ歩きに挑戦しました。
職場で披露したら、普通に観てくれて
「どう?どう?おもしろいでしょ」
「どうしたん?なにか~」でした。
よほど普段から、ロボットもどきなのでしょう。
けど、後ろ向きは難しいです~。
ダンスみたいでした。

すいません、おばさんコメントでした。
ところで川浪画伯の挿絵、寄り添う女性が蜻蛉のようではかないですね。

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