吉様まいる 上村吉弥のみよし会

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上村吉弥 「だんまり」は歌舞伎で暗闘と書く。百聞は一見に如かず。まあ、一度ご覧下さい。これこそ歌舞伎のなかの歌舞伎といっていいほどの様式化された演出である。
 たとえば下座音楽の「露は尾花と寝たという」などが始まると、もうそれだけでゾクゾクする。舞台の登場人物は、すべて無言。暗闇のなかで、見えないという約束のもとに、ゆっくり手探りしていく。このスローモーションがいいんですね。いったい誰がこの演技を編み出したのか、先人の知恵は侮りがたい。
 明るい舞台を闇の中と見せるには、もちろん腕がいる。全身をさらけ出してしまうから、役者ぶりのいい姿は一層鮮やかに見えるし、踊りの名手は風情が際立つ。更に言葉でごまかさない分、目の動きが重要になる。
 上村吉弥はこの目の使い方のうまい役者である。玉三郎の「天守物語」で薄に扮したとき、おおっと膝を叩いたものだ。下界を見下ろしながらの長い述懐は、誰がやっても途中ダレるものだが、遠望している眼光と台詞に、いささかの揺るぎもなかった。感動した。
 今回の「伊達競阿国戯場(だてくらべおくにかぶき)」の身売りの累(かさね)は関西では四十三年ぶりの上演という。水口一夫氏の補綴、演出は初心者にも心をくだき、幕開きの解説に桜田治助と子どもを出すなど懇切丁寧。幕切れをだんまりにして華やかな趣向にしたのは手柄である。相貌の崩れた累と打って変わり、吉弥の水も滴る姿を見て、これで観客は安心して家路につける。
 またもうひとつの収穫は、竹本の愛太夫と長一郎がうまかったこと。愛太夫の語りは若手のなかで随一といえそう。最近の竹本はスカスカして風通しがよすぎるのだが、愛太夫は肚が出来ている。昔の米太夫を髣髴とさせたのは、容姿ばかりではないようだ。将来が楽しみになってきた。(挿絵・川浪進)

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08/06/09│歌舞伎のツボ│コメント2

コメント

春香さん

今回も上級編ですね。

しかしながら
>>「だんまり」は歌舞伎で暗闘と書く。 
そうかあ、あれだったかな?
やはり今一度観ないといけない!!
観たい!と思わされました。

>>幕切れをだんまりにして華やかな趣向にしたのは手柄である。
>>相貌の崩れた累と打って変わり、吉弥の水も滴る姿を見て、
>>これで観客は安心して家路につける。
この箇所にも納得します。
演出家が緻密に組み立て、役者が芸を磨く。
観客が感動し、演出家や役者を育てるのでしょうか。

鋭く見抜きながら、楽しんで居られる春香さんの姿が思い描けます。
今回も『歌舞伎の神髄』お裾分けありがとうございます!

お春さん

今回は、オットット!今回も難しかった!

「だんまり」ですかぁ!又一つ、私の教養が増えやした。

明日の授業で、質問して学生達がいつものように「だんまり」をきめたら....
よおし!明日はこちらが「暗闘」を演じやしょう。手探りして、ゆっくり、スローモーションで、サッカー「欧州選手権」のナイス・プレイを!イッシッシ!

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