「ああ、あれならまた見てみたい」
近年歌舞伎以外の演劇で、文句なく太鼓判を押せるのは「笑の大学」である。西村雅彦と近藤芳正という手練の芝居には、魂消(たまげ)たものだ。まさに二人芝居の傑作といえるのではないか。検閲係と座付作家が火花を散らして激突する、その手に汗握る展開は見もの、とここまで書いてきて、これは何かに似ていると気がついた。そう、歌舞伎の歴史が正にこれなのである。
阿国歌舞伎は、時代の尖端を行く新しさが売り物だった。中国渡来の三味線を取り入れ、幸若舞を吸収し、鉦、笛、鼓で囃し立てる。しかし、色を売った為、たちまちお上のお咎めが下る。寛永六年に、女歌舞伎の一切禁止令が出されてしまう。この禁令は幕末まで続き、女優は舞台に立てなくなった。けれど役者はへこたれない。女がだめなら男がいるではないか。若衆歌舞伎の誕生。ところがそれも性的倒錯ということで、またもや禁止が出る。興行師、役者が嘆願してようやく役柄の分担をすることで、裁可を取り付けた。女方の誕生である。
この若衆歌舞伎が煽情的で、承応元年には前髪を剃り落とせという禁令が出される。考えましたね、役者も。それでは色を売らずに面白い筋で客を惹き付ける芝居を作ろうと。剃り落とした前髪のかわりには、紫の置手拭や紫帽子を工夫して使う。試行錯誤を重ねて、世界にも稀な女方の芸が完成されていく。
ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。お上のご威光なんかに負けてはいられない。鼠ごっこ鼬ごっこをやればやるほど、人間は創意工夫してもっと愉快なこと、もっと奥の深いことを考えてしまうんですね。飽くなき探求。おかげさまで、歌舞伎はこんなに魅力的になりました。(挿絵・川浪進)
コメント
お春さん
ウオッ!
観やしたよ♪「笑の大学」
もっとも、映画でしたけどね。
役所広司さんと稲垣吾郎さんの。
面白かった♪
歌舞伎の女形には、色々な歴史があったんですね。
「ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う」....
何か、誰かに言われたことがあるような...。ウフフ♪
投稿者: オンミ | 2008年7月 8日 17:33
春香さん
私も映画で観ましたよ~。
おもしろうてやがて哀しき…。
長良川の鵜飼いみたいな映画でした。
吾郎ちゃん無事に帰って!
あ、脱線しました。
飽くなき探求の歴史から生まれた歌舞伎の魅力なんですね。なるほど~。
オンミさんお久しぶりです。
投稿者: 風の子 | 2008年7月 8日 18:28