宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」を見た。孫たちは大はしゃぎで、目を輝かせて見入っていた。六歳の小学生はもとより、いつもなら30分で飽きる三歳の子が、画面に釘付けだった。監督の着想に脱帽である。
ひとつ気になったのは、宗介という主人公が、母親を終始リサと呼び捨てにしていたこと。時代を強調しているのかもしれないが、一番大切な肉親(ひと)を呼び捨てとはどうにも、ひっかかる。子どもの判断ではなく、おそらく親がそう仕向けたのだろう。そこに偽善を感じる。むろん、お父さんお母さんは明治末年の文部省の採用語だから、単に気に食わないだけなのかもしれないが。
もっと昔は何と呼んだのだろう。日葡辞書にはヲフクロ、浮世草紙などでは母者人(ははじゃひと)と出ている。かかさん。ははご。ははじゃがもの。幼児語ではかあちゃん、やがて、おっかさんになった。
歌舞伎で母恋いものは多いが、「芦屋道満大内鑑」(あしやどうまんおおうちかがみ)の四段目「葛(※注)の葉子別れ」が見ものである。
近ごろ話題の、陰陽師安倍晴明の生誕にまつわる時代物といえば、興味を持つ方も多かろう。和泉国、信太(しのだ)の森の白狐が安倍保名と契って生まれたのが晴明、という伝説を浄瑠璃にしたものである。
昔話の常で、人間の子どもを産み落とした狐は、所詮もとの古巣へ帰らねばならない。
「恋しくば尋ねきてみよ和泉なる信太の森のうらみ葛(※注)の葉」の和歌を障子に書き残す場面が圧巻である。頑是無い子どもは、別れとも知らず「かかさまイのォ」とまつわりつく。なだめる母は右手の筆を、やがて左に持ち替えて綴り、ついには子どもを抱き上げ、口にくわえて文字をしたためる。この「かかさまイのォ」の哀切さ、母親を呼ぶ言葉の美しいことたとえようがない。
ああ、そうか、監督は「お母さん」を使わないことで問題提起した、とみるべきなんですね。(挿絵・川浪進)
(※注)くさかんむりに曷
コメント
お春さん
「Shit!」 オット!失礼。はしたない。当地のクッサレ天気のことでっせ!8月に暖房を入れたのは、生まれてこのかた、今朝が初めてですよ。ヒデェ、ヒデェ!
夏らしい夏の日もないままに.....(涙)
ところで、今朝、御地では地震がありましたね。震度3とか。お春さん、大丈夫でしたか?
「陰陽師」は大好きな映画♪阿倍清明のお母さんは狐でしたっけ。
「芦屋道満大内鑑」の「かかさまイのォ」は「お母さん」のことですか?それとも、子供が母親にすがりつくときに「イのォ」と呼ぶのでしょうか?
私は「母さん」「父さん」と呼びます。愚娘達は、「ママ」「パパ」。もう、大人になった今でも!
よおし、この次、子供を授かったなら、「かかさま」と呼ばせやしょう!
五輪も終り、私の夏休みも終りやした。でも、お春さん、欧州サッカーはまさにこれから!ウフフ。
投稿者: オンミ | 2008年8月25日 15:33
春香さん
「おかあさん」は、世界中でいちばん素敵な呼び名ですよね。
それにしても♪ポニョポニョポニョ♪
癖になる唄でした。
あ、今回は、「芦屋道満大内鑑」ですか。勉強しました。
川浪画伯の絵にもある、手の形が気になって気になって。
中指と人差し指と薬指を少しそりつつ、第一関節第二関節で折る。
親指を小指で押さえて隠し、指三本だけにする。
これでよかったですか?
なんか真似して踊っていました。
あの母子の別れはつらいですねえ(涙)。
投稿者: 風の子 | 2008年8月25日 17:56