團十郎という朝顔があるというと、驚く方も多いのではないか。そもそも朝顔はヒルガオ科の一年草で、奈良時代、遣唐使によって薬草としてもたらされた。漢方の効用は下剤。後に観賞用になる。鈴木其一の「朝顔図屏風」でも知られるように、江戸時代後期には好事家たちにもてはやされ、大流行した。
著名とは言えないが、「朝茶事の朝顔一花團十郎」という斎藤小夜氏の句がある。朝の茶会の花は朝顔で、その名は團十郎であると詠んでいる。勘のいい人はすぐ、あ、千利休の故事を下敷きにしているとおわかりだろう。
時は桃山時代、利休が朝顔を愛でていると聞いた豊臣秀吉は、朝茶事を所望する。庭にあふれる朝顔を期待していった秀吉は、それがことごとく摘み取られていることに面食らう。浮かぬ顔で茶室に入ると、朝顔がたった一輪、床の間に活けてあったという。
奇をてらわず自然を好んだ利休にしては作為があり過ぎるようだ。あるいは後世の虚構かもしれない。これが二人の不和の引き金になったともいわれているが、秀吉と利休の気質がよく判る逸話である。
さて團十郎という朝顔は、ご承知の如く江戸歌舞伎に君臨してきた大名跡、市川團十郎に由来する。荒事の代表狂言「暫」には柿色の素袍(すおう)が用いられる。袖に三升の家紋を白抜きにした意匠は現代でも目を剥く鮮やかさである。江戸期この柿色が世間に広がり團十郎茶と呼ばれるようになった。その色に似た、黄蝉葉栗皮茶大輪(葉が黄色で丸く、栗の皮色の大きな花)朝顔に、團十郎と命名したのは誰だったのだろう。
名前の効目は絶大、飛ぶように売れたと物の本にはある。今日でも入谷の朝顔市をはじめ園芸店では人気の商品。ただし花が茶色でも、覆輪の入ったものや葉が青いものは、本物の團十郎とはいわないそうである。
尚「團十郎の歌舞伎案内」(PHP新書)によれば、団は團ではない、團十郎と書く時は是非この文字を使ってほしいとある。気持ちはとてもよく分かるので、ご意向に従った。(挿絵・川浪進)
コメント
春香さん
團十郎、パソコンにありました~。
川浪画伯の素晴らしい絵、色合いが絶妙ですね。
『團十郎』を思い描けました。
文章と絵の相乗作用ですね。
朝顔はあでやかながら、はかなくも可憐で大好きなお花です。
夏休みの絵日記で
「『團十郎』を母が買ってきました。咲くのが楽しみです!」
などと書きたかったです。
夏の終わり、季節感を感じさせられ、楽しませていただきました。
ありがとうございます。
投稿者: 風の子 | 2008年9月 1日 12:49
お春さん
あった。私のPCにも「團十郎」の「團」の字が!いつも変換が面倒で「団」を使ってました。ごめんなさい。團十郎さん。
團十郎さんはご病気を再発されたとニュースでお聞きしましたが、その後、ご容態は如何なのでしょう?
利休と秀吉のお話、面白かった♪さすがお春さん!すごい物知り!
綺麗な挿絵の「團十郎」。朝顔を沢山庭で咲かせていたのは、子供達が小さかった幸せな頃。
お春さん、「昼顔」という映画をご覧になったことがありますか?カトリーヌ・ドヌーブが全盛だった頃の映画です。最近、ある映画で、彼女を(脇役でしたが)観ましたが、凄い美女、美男って、高齢になると、その落差が激しいですね。男優なら、ロバート・レッドフォード。
ところで、お春さんは賭け事にお強いかしら?私は、からっきし弱いんですが、今ある試験の出題予想をしています。昨年は3問中、2問が大当たり!さて、今年は?
あ~!今日から9月なんですね…!
投稿者: オンミ | 2008年9月 1日 16:16