「昼飯なんにします? たぐりましょうか」
東京の友人にそう言われて、小首をかしげたことがある。手繰るとは何ぞや。
「あれっ、関西では言いませんか」
蕎麦を食べることだとは、知らなかった。聞けば寄席仲間の隠語だという。そういえば、上方落語の「時うどん」の焼き直しが「時そば」だから、関東は蕎麦一筋なのだろう。
蕎麦が出る歌舞伎は、黙阿弥の「雪暮夜入谷畦道」が極め付きである。主役の片岡直次郎は色男の代名詞だが、ここで見せる蕎麦の食べ方こそ江戸っ子の神髄といわれている。かけ蕎麦だが、とにかくその啜り込み方に色気がある。しかも本物の蕎麦、ときている。劇場近くの蕎麦屋が舞台の時間を見計らって毎日届けているのだった。
蕎麦の食べ方ほど侃々諤々やかましいものはない。漱石の猫では「ツユを三分一つけて一口に飲んでしまうんだね。噛んじゃいけない。噛んじゃ蕎麦の味がなくなる。つるつると咽喉を滑り込むところがねうちだよ」と、かの迷亭先生が蘊蓄を傾けている。五代目菊五郎がこの直次郎をやった時、己を際立たせるために、幕開きの岡っ引きにわざと、ぐちゃぐちゃ食べるよう命じたという。なるほど物事は比較で、よくみえるものだ。さすがに名人は目のつけどころが違うんですね。
当時の行灯には「二八蕎麦」という文字があった。なぜ二八蕎麦なのか。これは、一杯の値段が二八の十六文だからというのと、江戸風の小麦粉つなぎが二、蕎麦粉が八だからという二通りの説がある。
可笑しなもので、さして食べたいとも思わないのに、目の前でするすると蕎麦を啜られると、矢も盾もたまらなくなるのが世の常。この芝居のあとでは、必ず蕎麦屋が繁盛したという。ともあれ、色男が啜るのは、うどんではない。やっぱり粋な蕎麦に限る、というのが関西人にとって無念なところではある。暗がりの南座隣り晦日そば 谷口八星(挿絵・川浪進)
コメント
お春さん
イッシッシ!また金曜♪あたしゃ、金曜の方が う・れ・し・い♪
蕎麦もうどんも好きでさぁ。四国にいたときはなるほど、うどん屋さんは多かったけれど、蕎麦屋さんは少なかった。たまたま蕎麦屋さんを見つけても、高い、不味い、(量が)少ない!ひでぇモンでやした。
四国にいたときは、食べ物が北海道とは違っていて随分泣きやした。タラコはあるのに、鱈はない。数の子はあるのに、鰊はない。鮭はあるのに、筋子がない。街中筋子を探して、皆無と分かった日には、泣いた、泣いた!ウフフ。今は流通網が発達してそんなことは無いでしょうが…。
本物の蕎麦を蕎麦屋さんが舞台まで出前するんですか!こりゃ、大変!
1年半オーストラリアに居たことがありやすが、我家を訪れた沢山の友人に蕎麦、ラーメン、ソーメンをご馳走しやした。
欧米では、スープを音を出して食べるのはタブー。よって、彼らは、蕎麦までも音無しで食するのですが、変な具合でやした。「通は音を立てるんだ!」などと説明してもなんのその。一番可笑しかったのは、ソーメン!モグモグとやるんでさぁ!あんなモン、どうやって音を立てずに食べれやすか!
かけそば、ザル蕎麦も良いけれど、極め付きは、あたしが作りやす鰊蕎麦でさぁ。身欠き鰊を米のとぎ汁に一晩つけて、甘辛く炊くんです。それを葱と共に、茹でた蕎麦に乗っけて、温かいたれ汁をかけて食べるんです。お春さん、食べにオイデヨ♪ウフフ。
でも、寒いときの鍋焼きうどんもたまらない。ウフフ。食い意地がはってやすね。
作家には、料理が得意な先生が多々いますね。あたしも、沢山の小説から、レシピや料理のヒントを得てきやした。お春さんも、料理、うまいんだろうなぁ!ウフフ。
今日の進先生の挿絵の直次郎、まあ!本当にイイオトコ♪
投稿者: オンミ | 2008年10月24日 16:12
春香さん
─ 暗がりの南座隣り晦日そば ─
この句が利いていますね!!
私も漱石先生のくだりを読んで真似をしたものです。
なかなか上手くいきませんでした。
「雪暮夜入谷畦道」も観たくなりました。
さて、当地は、お蕎麦もお饂飩も美味しいですよ。
なんといっても真ん中ですから…。
お蕎麦は信州の流れでしょうか、中津川の車屋さんが贔屓です。
ざる蕎麦が大好き!
お饂飩は関西風のお店が多く、おだしがきいていますよ。
我が家から徒歩二分にも美味しいお店があります。
お蕎麦もお饂飩も美味しい地方!
いいとこ取りしています(^_-)。
今、空腹ではないのに、食べ物の話題だと、それこそ食いつきが違いますね。
先日も、都人のメール「御地で美味しいお店を教えて」が届き、あそことここと10カ所くらい送り、追伸で「お肉ならこことここ」また追伸「フレンチならあそことここ」。
夜中にお腹グウと鳴り、我ながら恥ずかしいことでした。
投稿者: 風の子 | 2008年10月25日 13:20