恋文は天紅の手紙で

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 一日、左京区黒谷の金戒(こんかい)光明寺で、長唄舞踊の「雨の五郎」を見物した。上方の歌舞伎役者、片岡愛之助の立方である。
 「雨の降る夜も雪の日も」から「とかく霞むが春の癖」の優しさに加えて、二上がりの「藪の鶯」の軽やかな手踊りが眼目である。 なるほど、時分の花を武器にした愛之助の五郎は、見とれるほどだった。芸を自家薬籠中のものにすると、こんなにも華やかさが横溢するものか。閑雅な寺の大方丈は、ひたひたと快楽が立ち籠め、眼福の一夜になった。
 曽我十郎五郎の兄弟の仇討ものは、歌舞伎でも様々な題材になっている。歌舞伎十八番の「助六」も実は曽我五郎時致であり、江戸の庶民は超人的英雄として、手を易え品を易え、彼らを祀り上げてきた。
 「雨の五郎」は俗に「廓通いの五郎」とも呼ばれ、大磯から始まり、浅草観音の開帳で賑やかにシメる舞踊である。愛之助は黒繻子地綿入に金糸色糸の大蝶飛び模様を東からげに着付け、素足に塗下駄、むきみ隈に紫縮緬冠という扮装がよく似合っていた。
 荒若衆という勇壮さを残しつつ、懐から取り出す天紅(てんべに)の文が何とも色っぽい。天紅とは巻紙の上の方を紅色に染めたもので、これで恋しい人に手紙を認(したた)めると、その気持ちがひしひしと伝わる仕掛けになっている。そう、恋を実らせたいあなた。一度、お試しあれ。効き目は請け合いましょう。
 この踊りで、もう一つ物をいうのは傘である。助六の傘は雨ではなく花を受けるためだが、この五郎は春雨を避けるために差す。その風情が実にいい。愛人の化粧坂(けわいざか)少将の許に通う道具立てを、これだけすっきり仕立てた先人の工夫に唸るばかり。
 雨男、雨女は嫌われるが、易学では「龍を招く強運の持ち主」と称賛されているとか。まことに、五郎の水もしたたる男振りには、雨もまたよろしである。(挿絵・市川猿之助の五郎・川浪進)

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08/10/31│歌舞伎のツボ│コメント2

コメント

お春さん

ははぁ!お春さんも、恋をget したことがあるんですね。天紅の恋文で。ウフフ。

今時のメールじゃダメなんですね。
あたしでも、恋が実るかしら??ウフフ。

いつも軽快なお春さんの文が今週もまたまた冴えてますね。

「歌舞伎の舞と踊」も面白かった♪「舞」と「踊」が違うとは!これは知って儲かった!ウフフ。

「雨もまたよろし」ですか。 お春さん、当地は雪でっせ!

春香さん

黒谷さんで舞踊ですか~。
素敵だったでしょうね。

会津武士たちも泉下で、喜ばれたことでしょう。

さて手紙を書くとは、相手の姿を思い描き、気遣い、自分の心を文字に託しますね。

大昔のことです、高校時代の恋人がインターハイの試合へ出掛けました。
合宿所へ先回りして、小包のようにふくれあがった封筒を送ったのです。
まあ、先輩にはからかわれたようです。
ハガキにほんの数行だけの返事でしたが嬉しかったです。
返事を書いている恋人の写真を、後日もらいました。
スポーツ刈りにした頭、白い半袖のシャツ、17歳の青年の横顔です。
今は亡き夫は写真の中で幸せそうにほほえんではがきを書いていました。

愛之助さんには及びませんが…。

さて、雨女の春香さんは強運の持ち主ですか!やはりそうだ!!

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