しんいちのライブな日々

ジャンゴ

 昨年9月、心筋梗塞(こうそく)で他界したエッセイストで医師の福島昌山人氏を偲ぶ会に参加した。冒頭に流されたはジャズのスタンダードナンバー「ジャンゴ」だった。大学の軽音で一緒だった友人の話によると、「死ぬ間際に聞きたい曲は」と問うた際に、氏と友人の双方がこの曲を選んだという。
 「ジプシー」出身のギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの死を悼んで、MJQのピアニスト、ジョン・ルイスが作曲したもの。ラインハルトの血に宿った民族の歴史に思いをはせるせいか、深い悲しみと、それをも昇華するやすらぎを感じさせる魅力的なナンバーだ。
 氏の追悼の場に流されると因果のようなものを感じざるを得ない。先代のときから福島医院は、京都駅周辺のホームレスの人々の受け入れ先としてなくてはならない病院だった。小説家志望ながらも、先代の背中を見て、「ここまでできるか」とためらいながら継いだ氏。飲んだくれの中年オヤジにしか見えない風貌とは裏腹に、いかに貧しくとも等しく接し、同業の心服を得る人だった。氏のやさしさが、曲のベースラインと溶け合う。

執筆者:平山