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靖国

日常は平穏そのものの靖国神社だが、毎年8月15日になると、そこは奇妙な祝祭的空間に変貌する。旧日本軍の軍服を着て「天皇陛下万歳」と猛々しく叫ぶ人たち、的外れな主張を述べ立て星条旗を掲げるアメリカ人、境内で催された追悼集会に抗議し参列者に袋叩きにされる若者、日本政府に「勝手に合祀された魂を返せ」と迫る台湾や韓国の遺族たち。そして、靖国神社のご神体とされる「靖国刀」と呼ばれる日本刀の存在。その鋳造を黙々と再現してみせる現代最後の刀匠の姿などを淡々と映し出していく。
国会議員による事実上の検閲とも取れる公開前の試写要求や、映画に登場する刀匠と制作側の関係についての関与など、特異な現象でもって社会的にその映画のタイトルを認知させた映画「靖国」。ドキュメンタリーという手法をもって監督自身が目の当たりにしたものは、靖国神社という戦争を祭る“生”と“死”の巨大な舞台であり、そこにおける戦争に関するさまざまな“記憶”と“忘却”、そして戦争の巨大な“仮面”であったという。そうして送り出された作品は、観たいと思う観客の思いに応えて世に出て行くことになる。さまざまな表情を見せる8月15日の靖国をぜひ観ていただきたい。(京都シネマ・横地由起子)

作品情報
- 出演:刈谷直治、菅原龍憲、高金素梅 ほか
- 監督:李 纓(リ イン)
- 脚本:
- 音楽:
- 製作年:2007
- 製作国:日本、中国、韓国
- 配給:ナインエンタテインメント、配給協力:アルゴ・ピクチャーズ
- 時間:123分
- ジャンル:ドキュメンタリー
- 原題:靖国YASUKUNI
- 公開日:08/06/07
- →京都シネマの上映情報
