ＣＬＵＢエンター

　ONCE、たった一度の出会い。ある日、あの時、ダブリンの街角で･･･。アイルランド、グラフトン・ストリートで、毎日のようにオンボロギターをかき鳴らす男。誰もが知るヒット曲を弾いている。しかし、夜には心の中(うち)を叫ぶように自分の書いた曲をかき鳴らすが足を止めるものはいない。そんな男の前に10セントのチップを出す女。運命と言うには大げさだが、偶然と呼ぶには大切すぎる出会い。
　女は、チェコからの移民で昼間は家政婦として働き母と娘と暮らし、楽器店でピアノを弾かせてもらう毎日。また男は昼間、電気修理をしながら父と暮らす。男は彼女の腕前を確信し、一緒にセッションしないかと持ちかけた。二人のセッションは、美しいハーモニーを奏で思わず感傷的になった男は、女を誘う。しかしいまだに昔の彼女が忘れらず、過去に生きる男。二人の距離は縮まりつかの間の恋人同士のような日々、しかし女はチェコに夫が、男は週明けにロンドンへ旅立つ、二人にとってはこの時間が結局は無意味なことだと十分に分かっているのに…。
　よくある、陳腐なラブストーリでもなくミュージシャンのための音楽映画でもない。等身大の大人の男女が奏でる人生の賛歌。実際の人生なんてうまくいかないことばかり、でもふとした出会いが、言葉が、音楽が人を前へと進ませてくれる。（京都シネマ・カワベ）