ＣＬＵＢエンター

　「なぜ俳優に？」、「それしか得意なことがなかったからさ」。「有名になりたい？」「いいえ、とにかく歌いたいの。ただそれだけ」
　NY。ウィリアムは若手俳優。気楽な恋愛を楽しみ、仕事もまずまず、「それなり」の日々を過ごしていた。21歳の誕生日を前に彼は、行きつけのバーで一人の女性と出会う。名前はサラ、シンガーソングライターを目指してNYへ来たばかり。
「怖くてたまらない。君に好かれているのか自信がない」
「セックスしたら、もっとあなたを好きになってしまう。それが怖いの」
　不思議な魅力を持つサラに、ウィリアムは自分でも信じられないくらい恋をする。サラもウィリアムに惹かれていく。初めて二人きりで旅したメキシコ。その暑さそのままに、のめりこむような恋をした二人は、結婚まで誓いあう。人生で最高に幸せな時間に浸る二人。
「私には“私だけの時間”も必要なの」
「どうしたらきみを正しく愛せるのかわからない」
　しかし、NYに戻るとサラの態度が微妙に違う。自分の将来も考え、恋人としての距離を欲しがるサラ。ウィリアムは二人の気持ちの温度差にとまどい、苛立ちを募らせていく…
　『リアリティ・バイツ』（94）『恋人までの距離〈ディスタンス〉』（95）『ビフォア・サンセット』（04）、数々のビタースウィートな恋愛映画に主演し、多くの人に共感を与えたイーサン・ホーク。『ビフォア・サンセット』では脚本家としてアカデミー賞にノミネートされた彼が、自身の体験を織り込みながら書き上げた同名小説を自ら監督・脚本・出演。好きだという気持ちをもてあまし、ただぶつけることしかできない―そんな誰にでも経験がある痛いほど純粋な気持ちを、NYで暮らす男女の何気ない会話やしぐさで鮮明に、ナチュラルに描き出していく。（京都シネマ・タニグチマサキ）